第39話 散策
「こちらですよソフィ」
平民の恰好をしたクレアさんが私の手を握りながら街中を案内してくれる。
私とルヴァイス様、そしてクレアさんの三人で平民の恰好をして歩いてるんだ。
ちょっとお金持ちの商人っていう設定なんだって。
平民街の市場に来るとお肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。
そういえば前に平民はモンスターのお肉を食べているってルヴァイス様が説明してくれた。
お野菜はとっても高価なんだって。
ご飯は大体みんな出店ですませちゃうらしいの。
神殿からでて市民の人が暮らしている区画にくるのははじめて。
馬車で王宮に来たときも貴族の区画から入ったからここは来たことない。
絵本で見たことはあったけれど実際見るのははじめてなんだ。
貴族の区画とは違って立ち並ぶ建物はみな低い。
真っ白いたてものがずらーって並んでる。大きさは私とレイゼルさんが住んでいたおうちくらいの家がいっぱいあるの。
そして道には出店がいっぱいあるんだ。
「何か食べてみるか?」
ルヴァイス様に言われて私はいい匂いのする串にささったお肉を買ってもらった。
私はクレアさんに貰ってお肉を食べてみるの、お肉はちょっと固い。
美味しそうに見えたけどお城の料理には全然敵わない。
「平民が使える調味料が塩しかない。そのためだ」
顔にでてたのか、私が何かを書く前にルヴァイス様が説明してくれた。
「うちの料理は香辛料がたっぷり使ってありますから」
クレアさんが耳元でささやいて教えてくれる。
そっか、それも【聖気】がないと作れないんだ。
はやく普通の人も美味しいものが食べれるように香辛料も栽培しなきゃ。
私はぎゅっとクレアさんの手を握る。
これはきっとお勉強も兼ねている。
私に普通の人の暮らしを教えてくれているんだと思うんだ。
だって私は仮初だとしても、ルヴァイス様のお嫁さんになるんだもの。
領地を豊かにするためにお手伝いするのもお嫁さんのお仕事だから。
「どうしたソフィ?楽しくないか?」
ルヴァイス様が聞くから私はぶんぶん首を横に振った。
楽しいよ。でもお勉強だから真面目にしなきゃ。
そう木版に書くと、ルヴァイス様が一瞬驚いた顔をして少し笑った。
「今回はそのような意図はない。純粋に楽しみなさい」
言って頭を撫でてくれる。
「あら、お嬢ちゃんお母さんとお父さんとお買物?」
石のベンチに座ってお肉の串を食べていたらお肉を売っていた人に話しかけられる。
「はい。服を買いに」
「あら、よかったわねぇいいお父さんとお母さんでよかったねお嬢ちゃん」
串焼きのお肉をパタパタ内輪で仰ぎながら言うの。
ううう。一応仮初でもお嫁さんなのに子ども扱いされた。
ルヴァイス様とクレアさんの子どもと思われたみたい。
生きてる年数は確かにルヴァイス様のほうが上だけど、ルヴァイス様は竜の血が濃いから普通の人と年齢の進みが違う。
正式な年齢なら5歳しか違わないはず。それなのに親子に見られるなんて……。
確かに私は同じくらいの子に比べて身長が低いと思う。
で、でも食べてなかったからだよ!
こっちにきていっぱい食べてるからきっと身長も伸びるはず!
「楽しくないか?」
つい表情が険しくなっちゃってルヴァイス様に心配されてしまう。
『違うよ楽しい!でも……子供扱いされる』
「15などまだ子供だ」
『それじゃあお嫁さんになれない。』
ルヴァイス様の役にたたないよ。
「急ぐことはあるまい。そうだな5年もすれば大人になれる」
……5年!?
長いよ!すっごく先!
私が「あーあー」と抗議するとルヴァイス様が面白そうに微笑んだ。
「その間に、研究の成果を見せてくれるのだろう?」
そっか!うん!そうだね!【聖気】が必要ない作物にするのが一番大事。
お嫁さん修行はその後だね。
その後私達は平民の中でもお金持ちの人がいく商店でお洋服を買ったの。
私のお洋服はルヴァイス様が選んでくれて、ルヴァイス様とクレアさんのお洋服は私が選んであげる。
レイゼルさんとした約束。
私は一度だけ神殿の外に行きたいって泣いてレイゼルさんを困らせた事があった。
神殿はどうしてもいつかまた火の中にいれられちゃうかもって怖くて眠れなかったんだ。
最初のころは寝るとまた大勢の神官の人が入ってきて、火の中につれていかれちゃう夢をよく見てた。そのたびにレイゼルさんが隣に座って、ぎゅっと手を握って子守唄をうたってくれていた。
その時、レイゼルさんが治ったら神殿から外出許可をもらって外にいこうねって約束してくれたんだ。
あの時はよく夢を見ていた。いつか神殿を抜け出して二人でひっそりと平民で暮らす夢。
一緒にお洋服を買って、レイゼルさんが私の洋服を。
私がレイゼルさんのお洋服を選ぶ約束。
「ソフィ?」
ルヴァイス様に名前を呼ばれて私は気づいた。
いつの間にか涙があふれ出している。
あれ、泣くつもりじゃなかったのに。
ルヴァイス様とクレアさんが心配しちゃう。
一生懸命ハンカチで拭うのに涙はとまってくれないの。
「ソフィ、父の服も選んであげなさい」
え?
「大丈夫。生きているさ。きっと会える」
不思議に思って見上げるとルヴァイス様がかがんでまっすぐに見つめて言ってくれた。
うん。そうだね。そうだよね。
ありがとうルヴァイス様。
私はレイゼルさんの綺麗な金髪ときれいな顔に似合いそうな白いお洋服を選んだ。
ちょっと王子様っぽいお洋服。
喜んでくれるといいな。
今度こそ生きて会えたら絶対に言うんだ。
お父さまって。
私はお洋服を袋にいれてもらってクレアさんと並んでお店をでた。
お店でみんなのお洋服とレイゼルさんのお洋服を買ったあと、ルヴァイス様が案内したいところがあるって私を肩車してくれて連れていってくれる。
王宮の近くにある小さい森の中。
『ルヴァイス様がよく行くところなの?』
「ああ、子供の時もよくきていた。今ならちょうどいい時刻だ」
『いい時刻?』
ルヴァイス様の上で疑問に思っていたら、丘を上がったその先で理由がよくわかった。
「あー」
思わず喋れないのに声が漏れる。
丘から見えたその景色は本当にすごかった。
地平線に沈む綺麗な赤色の太陽と、モヤのかかった湖が幻想的で、その靄のなかにはうっすらと虹がかかってる。
「この地方で一定時期だけ見れる景色だ。ここから見るのが一番美しい」
「凄いです。私も初めてみました」
クレアさんも感動に声をあげた。
本来なら王族の所有地だから平民は入れない場所なんだって。
結界がはってあって、王族とその許可したものだけしか入れない場所。
キュイがその景色に嬉しそうに、「キュイー♪」って私の周りを周って、綺麗だねって訴えてる。
今は他に人もいないから、キュイもテオさんも今は姿を消してない。
私がそうだねって心の中で答えたら、キュイが私の肩に止まってほおずりをしてくれた。
キュイも私が泣いてたから心配してくれたみたい。ごめんねキュイ。
もう泣かないよ。
だって今はこんなに幸せなんだもの。
『ルヴァイス様素敵な場所につれてきてくれてありがとう』
木版に書くとルヴァイス様が笑ってくれた。
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