第30話 他視点
「竜王陛下、先日は失礼いたしました」
宮殿の王座の間。王座に座った状態のルヴァイスに竜神官の大司教が頭を下げた。
短い銀髪の端正な顔立ちの男性。
竜神官(リュドルフ)を束ねるラウシャ教の大司教ルグミラだ。
「そのような言葉で許されるとでも?」
「体調を悪くし、至急取り掛からねばならぬ作業だった故、誠に申し訳なく」
仰々しく大司教が頭を下げるが、その姿にルヴァイスは内心舌打ちした。
この男はルヴァイスの父の代以前から王族を見下し、竜王国はラウシャ教が支配すべきと思っている竜神官の中でも過激派だ。
今回の件もルヴァイスを試すためだけに、ソフィアに危害を加えた。
それがわかっていながら、裁けない状況にルヴァイスは語気を強める。
「ほう司教が動く余裕があるのに、先に連絡をよこす使いも出せぬほど急いでいたと?」
「そこまで頭が回らなかったことを平にご容赦を」
「……説明したはずだ、ソフィアは神官を恐れていると。
それなのにソフィアの退出を待つ暇もなく乗り込んだ。
それが何を意味するのかわかっているのか?」
「申し訳ありません」
「ソフィアに不敬を働くのは余に逆らうのも同じ。
ずいぶん余のことを甘くみてくれたようだが。
このままですむと思うな」
「申し訳ございません、その怒りはごもっともでございます。
司教は役職を解き、王宮に身柄を引き渡しいたします。
牢獄にいれるなりなんなりとしてください」
その言葉にルヴァイスは目を細めた。
ルヴァイスは大司教を見る。
もしその司教を処罰しようものなら、【番】に溺れて司教を傷つけたとでも噂を触れ回るつもりだろう。大司教は300歳。かなりの人脈と実績がある。
今すぐ首を切ってやりたい衝動に駆られるが今ではない。
反撃するのは【聖気】を必要としない研究が進んでからだ。
「もうよい、下がれ」
ルヴァイスは吐き捨てるように告げるのだった。
◆◆◆
「どうやら番というのは本当らしいな。
聖気も使えぬ、呪いのせいで子を作ることもできぬルヴァイスが遠征を引き返してまでそこまでするのは理由が他に思い当たらない」
竜神殿にもどった大司教が豪華な調度品の置かれた自室でワイングラス片手につぶやいた。
そばには彼の側近が控えている。
「あの少女が番ですか、なかなかどうして。
【セスナの炎】で焼かれた呪われた子が番とは滑稽な」
金髪の司教がそう言いながら大司教にワイングラスにワインを丁寧に注ぐ。
「魔獣の呪いを受けたルヴァイスにはそれ相応の相手ではないか。
呪われたもの同士お似合いだ。
どのみち呪われた身体では子を作れぬ、放っておいて問題ないだろう」
そう言って大司教はほくそ笑んだ。
「はっ」
◆◆◆
「どういうことなの!? 聖女の私がこんな小さな館に住むことになるなんて!?」
聖都のはずれ。大神殿からかなり離れた位置にある古びた屋敷の前で、デイジアが叫んだ。いままで住んでいた大神殿から比べるとデイジアから見て小汚い屋敷にしか見えない。
「デイジア様、聖女の職は従姉のカシャ様になりました。いままでお勤めありがとうございました」
館に馬車でデイジアを連れてきた老神官が頭を下げる。
「待って!!まだ私は【聖気】があるわ!!」
「……これ以上は言わせないでいただきたい」
すがるデイジアに老神官が冷めた目でにらみつけると、館の侍女達にデイジア達の荷物を運びこむように指示した。
「お母さまっ!!」
同じく馬車でやってきたグラシアにデイジアは抱き着くが
「黙りなさい!!もとはといえばあなたに【聖気】がないせいでしょう!?」
と、振り払う。
「お母さま……? 私を置いてどこへ?」
「あんたみたいな役立たずの顔見たくもないわっ!!!
私は別の別荘ですごします、あなたはここにいなさいっ!!!」
そう言ってグラシアは馬車に乗り込んだ。
「お母さま!!」
すがるように手を伸ばすが、デイジアの肩に老神官が手を置いた。
「さぁ、ここで汚れた呪いをとるための修行ですよ。デイジア様」
告げる老神官の声はとても冷たいものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。