第29話 癒えぬ傷

 

「汚い子」


「燃えてしまえばいい」


 ひそひそと私の悪口をわざと聞こえるように言う神官達。

 ぎろっと私をにらむ目だけが黒い闇夜に浮かび上がる。


 ガシャンって大きな音がして、私はガラスの部屋に閉じ込められた。


 そして熱い熱気。

 燃え盛る炎。


 嫌だ嫌だ嫌だ。


 死にたくない、助けて、怖い。

 やっぱり私は幸せになんてなっちゃいけないんだ。


 ダメな子。茶髪の汚い子。目を覚ましたら薄暗いお部屋に閉じ込められている日々に戻る。

 もしかしたらもう体は燃えていて、死ぬ前の夢を見ているのかもしれない。

 レイゼルさんもルヴァイス様も全部全部全部夢。


 お願い夢なら覚めないで、私の生きる意味を奪わないで。

 まだ死にたくない。


 熱い。痛い。息ができない苦しいよ。


 私だって聖女だもの、みんなの役に、世界に役立てる人になりたい。

【聖気】なんてなくたって人々が幸せになれる世界をつくりたい。


 助けて、レイゼルさん。おいていかないで?


 助けて、助けて、ルヴァイス――


「ソフィアっ!!」


 がしっと手を握られて目を覚ます。

 そこにいたのは手を握ってくれていたルヴァイス様。


「……あ、あー?」


 私のいつもの部屋のベッドの上に私は寝ていてルヴァイス様が私の手を握っていてくれた。

 月明りでうっすらときれいなルヴァイス様が心配そうに私の顔を覗き込んでいた


 あれ、ルヴァイス様は急な遠征で10日戻ってこないと聞いたのに。

 なんでここにいるんだろう?

 やっぱり夢なのかな?


 そんなことを考えていたら、クレアさんが心配そうにのぞき込んできた。


「……本当に申し訳ありませんっ」


 って頭をさげる。


「医者に診てもらったところ体に異常はないようです。今日はゆっくりお休みください」


 今度はテオさんも言うの。


「すまなかった。まさか竜神官達があのような強引な手を使ってくるとは予想外だった。

 もう二度とこのようなことがないようにする」


 そう言ってルヴァイス様が頭を下げてくれた。


『大丈夫。ちょっと怖かっただけ。心が弱い私がダメなだけだから。

 ごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい』


 私が紙に書くと、ルヴァイス様は首を横に振った。


「いや、守ると約束して守れなかったのだから私の責任だ。

 これ以後は外にソフィアを出すことはしない」


 ルヴァイス様の言葉に私はさーっと血の気が引くのがわかった。

 外にださないってどういうことだろう?

 もういらない子ってこと?


 やだ。いやだ。頑張るから捨てないで。


 私が泣きそうになったらルヴァイス様は困ったような顔をして


「ソフィアを幽閉するという意味ではない。王宮では、安心できぬ。

 こちらは私たちに任せなさい。ソフィアには普段は、研究所に行ってもらう。

 研究所なら竜神官達が来ることもない」


 そう言われて、私はがばって顔をあげた。


『研究所!? 植物の研究の?』


 できる!やっと研究ができるっ!?


 私がうれしくてがばぁって立ち上がったら、ルヴァイス様がびっくりする。


『ごめんなさい。うれしくて』


 私は慌てて紙に書いてルヴァイス様に謝ると、ルヴァイス様がふふって笑ってくれて。


「うれしいなら何よりだ。それだけ元気があれば大丈夫だろう。今日は休みなさい」


 と、微笑んでくれた。そして優しく頭をなでてくれた。

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