119.ヘルホルン温泉、銭湯の設置

 だいぶ涼しくなってきた。

 そこで今日は温泉に行こうということになった。


「温泉に行きます!」

「温泉!!!」


 ミーニャたちも温泉という言葉自体は知っている。

 お湯が出てて体を浸けて温めるという知識はある。


「ヘルホルン温泉です」

「「「はーい」」」


 ということで相変わらず暇そうなマークさんを連れていく。

 ラプンツェル三姉妹も行きたいというので、今回は同行する。


「では行ってきます。領主様」

「ああ、行ってらっしゃい」


 ギードさんたちに挨拶をしてエルダニアを出る。


 トライエ市側の南門ではなく、王都側の北門から出て分岐し北へ向かう。

 王都だと右へ折れてそのまま東へ進む。


 ヘルホルン山の東砦のルートだ。

 馬車を拝借してみんなで乗っていく。


 トコトコと馬に曳かれて進んでいく。

 目の前、北側には標高三千メートル級のヘルホルン火山がある。

 その東の裾野、峠を通るのが東砦のルートで、以前エルフ騎士団が通った道だ。


 普通はエルダニア経由でエルフ領と行き来するんだけど、エルダニアが崩壊してからは王都から直通の馬車が強行軍をしていた。

 それもだいぶ解消されるようになってきた。


 だんだん登り道を進んでいく。


「お山、おっきいね」

「ああ」


 ミーニャが馬車の前に頭を突っ込んで、上を見ている。

 さすがヘルホルン山。近くで見るととても大きい。

 道は左右に行ったり来たりしつつ、山道を登っていく。


 東砦より少し手前、小さな集落があった。

 集落からは湯煙が上がっていた。


「はい、ここがヘルホルン温泉」

「「「わーい」」」

「うふふ」


 温泉宿の前に馬車を止める。


 ミーニャたちが馬車を降りて走りまわっている。

 お姉さんたちはそれを見て笑っていた。


 やっと到着した。ヘルホルン温泉。

 かすかに硫黄の匂いがする。温泉の匂いだ。


「すごい、すごい。煙いっぱい出てる。匂いする!!」

「そうだね」

「お湯なんだよね、お湯がいっぱい」

「らしいね」


 ミーニャたちは鼻がいいのか、クンクンしてその匂いに大興奮。

 庭を駆け回る犬みたいになっていた。猫だけど。


 みんなで温泉宿に入る。

 入口すぐ横には宿泊所とは別に温泉への出入り口があった。


「それじゃあ、また。男女別なんだ」

「へぇ。エドは男の子だもんね、じゃあね!」


 ミーニャたちが女子風呂へ突入していく。

 ラプンツェル三姉妹もそれに続いた。


 俺はマークさんとしっぽり温泉に入った。


「にゃはははは」

「もうっ」

「わわわ、みゃうみゃう」


 温泉は壁を挟んで隣同士になっていて、女の子たちの声が聞こえる。

 向こうは大盛り上がりのようだ。

 他の客の迷惑になっていなければいいけれど。

 もっとも男湯のほうは昼間のこの時間だからか他に客はいない。


「平和ですなぁ」

「そうだね、あはは。エド君」


 俺とマークさんで笑ってミーニャたちの声を聞く。


「ここを登ると東砦、それからエルフ領ですよね」

「そうだね」

「行ったことありますか?」

「一回だけあるね。エルフ領は領主に逃げられてピリピリしていたのですぐに戻ってきたけどね」

「あぁ」

「エルダニア崩壊以降、ここを通る人もかなり減ったらしい」

「ですよね」

「エルダニアが復興してもらえるのはありがたいだろうな」

「なるほど」


 カポーン。

 エルダニアとエルフ領の未来を考えつつ、温かいお湯に浸かる。


 お風呂から出る。

 今日はここで一泊していく。

 時間はまだある。


「おんせんまんじゅー」

「「「わーい」」」


 湯上りホクホク妖精さんたちと温泉饅頭を食べた。


「「「美味しい」」」


 中身はあんこではなく高菜みたいな葉っぱの砂糖漬けだった。

 これはこれで悪くはない。

 この葉っぱの砂糖漬け、エルフ領から仕入れているらしい。


 そして夕ご飯。

 当たり前だけど、日本の温泉宿で山間部なのに刺身とか出るのは物流のなせる業だ。

 ここでは海の幸はさすがに出なかった。代わりにジビエのイノシシ鍋がメインだった。

 それからたくさんの山菜。

 これはこれで大変美味しかったです。


 翌日。

 ポクポク馬を走らせて山を下っていく。

 上の方は外気温が少し寒かったので、温泉でちょうどよかった。

 下ってくると少し暖かく感じた。


 そうしてエルダニアに戻った。


 ところでエルダニアでもお風呂に入りたい。

 領主館ホテルのお風呂も秋になってから再開をしていた。

 しかし一般市民みんなで入るという訳にはいかない。


 そこで街の中心街にエルダニア浴場を設置することにしていた。

 計画は前からあって、すでに完成間近だった。

 オープンする前にヘルホルン温泉にこちらのお風呂文化を視察に行ったのだ。



 パチパチパチ。


「エルダニア浴場、オープンです」


 拍手喝采。さっそくドワーフの棟梁を筆頭にみんながお風呂へ入りに来てくれた。

 大工仕事は汗をかく。

 夏を過ぎてもそれは同じだった。


 宗教観の都合で現代日本と同じように男女に分かれている。

 子供たちには関係ないけど、一応別々でお風呂に入る。

 あとここには家族用の貸し切りお風呂も一応ある。


 トライエ市では昔は噴水前の水場で水風呂文化があったが廃れてしまった。

 今は水タオルで体を拭くのが一般的になっている。

 お風呂は貴族の屋敷などにしかない。


 エルダニアは仮設のテントだったのでそれ以前の問題だった。

 気にする人は同じように水タオルで拭いているらしい。


 こうして市民もお風呂に入ることができるようになりました。


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