118.公園と倉庫、秋の終わりの狼煙の日、収穫祭

 住宅地の中心地に公園を設置することにした。


「ここが公園?」

「うん、公園。トライエ市にはそういうのないんだよね」

「そうだね」


 運動スペース、芝生公園、砂場、それから樹木。

 食べられる種類のドングリの木を何本か植える。

 さらにサクラの木、カエデ、イチョウを植樹した。

 低木にはアジサイ、ツバキなどを植えた。

 園内には用水路もある。

 それから公共スライムトイレ。


 将来、街になって空き地がなくなっても、子供たちが遊べるように。

 それから家族や恋人などの憩いの場になるようにしようと思う。


 現代日本では生水は飲まないという人もいるが、文明レベルの低いこの世界では普通に飲む。

 用水路の水は、生活用水としても飲料水としても使える。


 それから火災時などの避難場所になる。


 園内の隅には非常用食糧倉庫を設置してある。

 そうだ、倉庫だ。


「ここは同じ倉庫がいっぱいだね」


 ミーニャと完成した倉庫街を見に行ったけど、別段面白いものはない。

 いくつかの倉庫は扉が開いて、荷物を搬入しているのが見える程度だ。


 ということで王都側の大通りのすぐ横方向にある通りを「倉庫街」と名付けて同じ規格の倉庫を建てた。

 火災も怖いがこの世界では飢饉ききんはもっと怖い。

 半分は公共の食料貯蔵庫として、もう半分は民間への貸倉庫とする。


 王都は手狭でこういう余裕のある倉庫は少ないらしい。

 王都のバックアップもかねて食糧倉庫は必要だろう。


 だいぶ街らしくなってきた。

 といってもまだ表面上、建物が並んでいるだけで、住民生活というものはほとんどない。


 秋もいよいよ終わりだ。

 そうです。秋の終わりの『狼煙の日』がある。


「煙出てきたぁ」

「いよいよですね」

「わわ、け~む~り~にゃう」


 わいのわいの、と領主館からその様子を観察する。

 さすがに王都の煙は見えない。


 北側にはヘルホルン山の山麓があり、西砦と東砦の両方から煙が上がっている。

 南西にはバレル町の狼煙、少しさらに西方向にエクシス橋からの狼煙が見える。

 西の方向にはトライエ市と見張り山からの狼煙が何筋か見えている。


「け~む~り~」


 きゃっきゃと言って笑っている。

 緊急時ならこれは非常事態なので笑いごとではないのだけど、狼煙の日は煙が出るのは決まっているので、のんきなものだ。

 今日は快晴、昨日雨が降ったので、空気も非常に澄んでいて遠くまでよく見える。


 秋晴れよ 遠くたなびく 煙かな ――エド、心の俳句


 なんにせよ最近は異常もなく平和でよかった。


 翌日。

 朝起きたときから外が騒がしい。


 理由はわかっている。秋の終わりの狼煙の日の次の日といえば収穫祭だ。

 料理がどんどん外へ運ばれていく。


 街の中央の噴水広場では、テーブルが出されて所せましと料理が並んでいた。

 エールも振る舞われている。


 白パン、黒パン、コンソメスープ、トマトスープ。

 フライドポテト、クッキー、それからピザ。

 他にもたくさん。


 そしてメインは豚の丸焼きだ。

 あのぐるぐるやる機械で豚が火炙りにされて焼かれている。


「美味しそう」

「私たちも食べていいのでしょうか」

「いいんじゃね」


 俺は適当にポテトを摘まんでもぐもぐする。


「領主館のぼーずたちじゃないか、大きくなったか? いいぞ、ほれ、のめのめ」

「ダメですよ。お子様ははい、レモン水ね」

「やった」


 俺たちはレモン水が結構好きだ。


「「「かんぱい」」」


 レモン水を入れたコップで乾杯をする。

 パンとかピザとかを適当に食べる。


 うん、うまい。


「へへへ」

「美味しいです」

「おいちぃ、みゃうみゃう」


 今日も腹ペコ妖精さんたちは健在で、もくもくと食べている。

 結構運動しているからか、全然太る気配はない。

 前は痩せぎすだったので、これでちょうどいいのだ。


 ガリガリだったもんな、最初。

 ミーニャもラニアもそれからシエルだって、骨だけかというくらい細かった。


 領主館のメイドさんたちが料理を運んだり、飲み物を配ったりしている。

 彼女たちも順番に休んで食べたりするらしいので大丈夫みたい。


 少しはお肉がついて、ほっぺなんかぷにぷにだ。

 女の子らしくなってきた。

 でもお胸様はまだぜんぜんないね。


 うむうむ、順調で育っているようで何より。

 背丈はこの半年でいくぶんか伸びたと思う。


 美少女ぶりにも磨きがかかってきたと思う。

 ミーニャの金髪も綺麗だし、ラニアの青空のような髪も美しい。

 シエルちゃんも相変わらずチャーミングでかわいい。


 秋の収穫祭。

 一年の収穫を神様に祝う行事だ。

 日本でも「勤労感謝の日」は新嘗祭にいなめさいというのをやる日となっている。

 英語圏ではハロウィンがそうだと思う。


 文化は違っても収穫祭は割とポピュラーなのだ。

 さあ、飲め、食え、歌え。


「にゃ~ららららにゃ~、にゃにゃ~♪」

「「にゃ~♪ にゃ~~♪」」


 ミーニャたちも歌い出した。

 三人で合わせて歌っている声が聞こえる。

 今日は知っている曲だ。よく収穫祭で歌われる定番曲。

 少女たちの高い声は、青空に吸い込まれるようだった。

 これには街の人たちもよろこんでくれた。


 にゃにゃにゃ~と歌う少女たちはとてもかわいい。

 服装もお揃いで子供用のメイド服になっている。


 これも心の写真に撮っておこう。


 季節は進んでいく。思い出いっぱいにしような。


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