第12話 ラーメン純樹

 午前中、美沙希はもう1匹小バスを釣り、カズミはニゴイを釣り上げた。バスではなかったが、釣り初心者の彼女は何が釣れても楽しかった。 


「そろそろお腹がすいたね」とカズミが言った。

「そうね」

「何を食べようか?」

 美沙希の目がキラリと輝いた。

「あのさ、カズミ、ラーメンは好き?」   

「うん。まぁ、ふつうに好きだけど」

「じゃあさ、ラーメン食べに行かない? このあたりではナンバー1のお店を知っているの。私基準ではみそラーメンなら日本一のラーメン屋さん!」

「日本一?」

 おおげさだなぁとカズミは思ったが、美沙希の目は真剣で、行こう行こうと誘っている。

 カズミは意外だった。このすらっとした美少女がラーメン好きとは。でも、もちろん美沙希が推すラーメン屋さんに行ってみたかった。

「食べたい」

「じゃあ行こう。自転車飛ばすわよ!」


 美沙希とカズミの地元は水郷地帯と呼ばれている。

 カスミガウラ水系の南あたりで、大小さまざまな河川や水路が流れている。湖沼もある。

 ふたりはそこを自転車で走った。

 先頭は美沙希。そのあとをカズミが追う。

 美沙希はときどき振り返って、カズミがついてきているか確認する。

 カズミは気にかけてもらっているようでうれしかった。

 橋をいくつか越えた。


 国道沿いに黄色い地に黒い字で「北海とんこつらーめん純樹」と書かれた看板があった。

 狭い駐車場にはぎっしりと車が駐められ、店の前に3人ほどの行列があった。

 自転車を駐輪場に置き、美沙希とカズミは列に並んだ。

 美沙希は見るからにウキウキしている。

 カズミの期待も膨らんできた。

 ちょうどぞろぞろとお客さんが出てきて、入れ替わりに入ることができた。

 店内にはカウンター席、テーブル席、座敷席があり、美沙希たちはカウンター席に案内された。湯気が立つ厨房が見える。


 カズミはふたつ折りにされたメニューを開いた。写真付きでみそラーメン、しょうゆラーメン、塩ラーメン、餃子、チャーハン、一品料理などが紹介されている。みそラーメンにも辛みそ、野菜みそ、ゴマみそ、坦々みそ、みそつけ麺などがあって、選ぶのがむずかしい。塩バジルラーメンなんて変わり種もある。

 こだわりの味噌が売りらしく、メニューには「数種類の味噌と野菜の旨味あふれる味噌ダレ」と書かれている。さらには「その日の温度や湿度によって配合や加水のバランスを変えて打つ自家製麺。小麦の風味がしっかりと感じられる」などと麺についての記述もあった。

「もしかして、すごい名店?」

「食べればわかるわ」

 お客さんたちはずずっと音を立てて麺をすすっている。カズミはごくっとつばを飲み込んだ。

「私は辛みそラーメンを食べるけど、カズミはどうする?」

「どれも美味しそうでわからないよ〜」

「じゃあ基本のみそラーメンにしておけばいいよ。ちなみに大盛りも普通盛りも値段は同じ。私は大盛りにするけど」

「ああっ、あたしも大盛りで!」

「決まりね。辛みそラーメンとみそラーメンお願いします。どちらも大盛りで!」

 美沙希は慣れているらしく、大きな声で注文した。学校ではおとなしい彼女が釣り場やラーメン屋では別人のように元気だ。


 やがて、迫力満点のラーメンが運ばれてきた。

 キャベツやもやしなどの野菜がこぼれそうなほど盛り上がり、肉厚なチャーシューが1枚乗っている。

 スープの色はとんこつの白濁と味噌が混ざった明るめの茶色。ごまと背脂が浮かび、少しばかりの鷹の爪が散っている。辛みそラーメンは赤いラー油がスープの表面を覆っている。

「いただきます!」

 美沙希が食べ始めた。

 カズミはスマホで写真を撮り、箸を割った。

 あふれそうな野菜を食べ、スープを飲んだ。

「旨っ!」

「ね、旨いでしょう?」

 麺をすする。

「旨い!」

「旨いのよ! 純樹のラーメン旨いのよぉ!」

「辛みそ、味見させてもらってもいい?」

「どうぞ」

 レンガにスープをすくってひと飲み。

「辛っ! 旨っ!」

「辛旨よね〜」

「旨いよ、旨い。もしかして本当に日本一のみそラーメンかも」

「私の知る限りでは、これを超えるみそラーメンはないわ」

「旨い!」

「旨い!」


 ふたりとも、大盛りを麺もスープも完食してしまった。

「お腹いっぱい」

「でも食べれちゃうのよね〜。ふう」

 みそラーメン820円、辛みそラーメン890円。

 美沙希もカズミも大満足だった。

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