偽りの王女
俺はレセッタに手をかざすと、俺が持っている「王女」を彼女に移すことを念じた。
レセッタも当然それを受け入れ、「王女」は彼女の元に移っていくかと思われた。が。
なぜか「王女」は彼女の元に移った瞬間効果を失った。レセッタは確かに「王女」を持っているはずなのになぜか相変わらず職業無しのままなのだ。
ちなみに俺は「王女」を失ったせいか、身体能力が一気に下がったような気がする。やはり「王女」は稀少職業だったから俺の身体能力向上も大きかったのだろう。
「こ、これは?」
「あたしも分からない……」
レセッタも首をかしげる。
「あれ、何かレベル? ていうものが上がった!」
「本当か?」
そう言えばレセッタは俺と同系統の力を持っている。ということは俺と同じように職業を持ってもその効果が直接反映される訳ではないということか。
そして稀少性が高い職業を受け取ったからか、彼女のレベルは上がったのだろう。
「そうか、それなら返してもらえないか?」
「あ、ああ……」
戸惑いながらもレセッタは「王女」を返してくれる。
職業は無事に返ってきた。
何かを損した訳ではないが、あれだけ重要な決断をティアとレセッタに迫っておきながら結局何事もなかったのかと思うととんだ肩透かしだ。
「ちなみにレベルが上がって何か変化はあったか?」
「どうだろう……あ、偽ることが出来る職業が増えてるね……いや、これなら『王女』にもなれるかもしれない!」
レセッタははっとしたように言う。
「本当か!? それならもしかして俺も違う職業になれるのか?」
「どうだろう……いや、それは無理だ。恐らくあたしだけだね」
試そうとしたが、レセッタはすぐに落胆したように言う。
恐らく今のレベルでは自分だけは稀少性が高い職業に偽装するということが出来るようになったということだ。
とはいえ、それが出来るということは「王女」の手札が二枚に増えたと言える。むしろ俺が「王女」を持ったままでレセッタが「王女」になれるのだから予定よりもいい結果になったと言える。
「じゃあ今後は『王女』として振る舞ってくれ」
「……分かった。正直近隣の領主に手紙を書くと言っても、一介の『聖女』では箔不足だと思っていたから困っていたところだったんだ。本物かどうか分からなくても『王女』がライオット伯爵の手に堕ちるかもしれないとなれば周辺の領主たちも傍観はしていられないだろうさ」
「確かにそうだな。それじゃあよろしく頼む」
「ああ。代わりに街の防衛の方は任せたよ」
「任せてくれ」
俺は出来るだけ自信満々に見えるように答える。
そして元ホーク男爵屋敷へと戻っていった。
すると、そこにはすでに街の人々が集まり始めていた。集まっているのは若くて腕っぷしの強そうな男が多い。
男爵のように身分やお金があればどこでも暮らしていけるのかもしれないが、普通の人々にとっては生まれ育った街から離れるなんて選択肢は基本的にはないのだろう。俺だって普通の職業を授かっていれば一生あの街で暮らしていたと思う。
やはり彼らのためにも頑張らなければ、とこの街に来たときには全くなかった使命感のようなものが湧いてくるのを俺は感じた。
屋敷の中に入っていくと、集まった人々に対してティアが仕切っている。
「あ、お帰りなさいアレン様」
「よくこんなに集まったな」
「はい、リンさんとフィリアさんが今集めてくださっています」
「そうか。実はレセッタの件なんだが……」
俺は周囲に聞こえないように小声でティアにさっきあったことを耳打ちする。
ティアは驚いたようだが、少しほっとしたような表情になった。
「そうですか。うまくいったのも良かったですが……アレン様が『王女』を持ったままでいてくれて嬉しいです」
「そうか、それはそうかもな」
ティアからすれば手放したとしても「王女」に愛着のようなものが残っているのかもしれない。
「とはいえここからが本番だ。頑張るぞ」
「はい!」
ティアは晴れ晴れとした表情で頷いた。
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