ティアの決意
「どうなりましたか?」
屋敷に戻るとティアとフィリアが心配そうな表情で出迎えてくれる。
「実は……」
俺はライオット伯爵の陣であったことを手短に話す。
話していくにつれてティアとフィリアの表情がさーっと青くなっていった。
「そ、そんな……」
「本当にやるの?」
「ああ。他の領主への連絡はレセッタがやってくれるらしい。それで俺は街の人々の指揮をすることになった。大丈夫だ、俺はここまでの旅で結構な量の職業を持っている。これを街の人々に配れば戦力はかなり上がるだろう」
ライオット伯爵の軍勢も、武将クラスの職業は強いが、二千の兵士のほとんどは徴兵された一般の人々である。だからこちらも一般人の協力が得られれば勝つとは言わなくとも負けない目はある。
「でも、それならやはり私が……」
ティアが小声で言う。
そんな重大事になるのであれば、今こそ王女である自分が何かしなければならないと思っているのだろう。
「ちょっと2人で話そうか」
この話はリンやフィリアにも聞かれない方がいいだろう、と思った俺はティアとともに別室へいく。そして周囲に誰もいないことを確認したうえで改めて向き合う。
ここ数日ティアは何度も悩んでいたようだったが、今も悩んでいるようだった。
「あの、やはり私が王女として名乗り出て皆をまとめた方がいいのではないでしょうか」
「それはティアがそうしたいということか?」
「そうではありません、ただそうするのが一番丸く収まるような気がするのです」
確かにティアが王女として周辺の領主をまとめ、その上でライオット伯爵に無法行為をやめるよう命令すれば周辺の戦乱は収まるだろう。
「でも、そうなればロシュタール公やエルム公が……」
ただ、代わりに王都付近で争っている大貴族がどのような動きをするか分からない。国内の戦乱が、ティアをめぐっての戦乱に変わるだけかもしれない。
俺はこの国の事情に詳しくないのでどちらとも言えないが、ティアには思うところがあるのだろう。
「一応訊くが、ティアは王女に戻りたいのか? 今は内乱状態になっているこの国だが、だからこそうまく周囲をまとめられれば王族の力を取り戻せるかもしれないし、俺の力や皆の協力があればそれも可能だと思っている。それとも混乱を収める他の方法があるのであればその方がいいのか?」
「どのような事情であれ、一度地位を捨てた者が王女に戻るのは良くないと思います。あのとき、私は確かに王族の地位を捨てる決意をしました。それに、もし良ければアレン様やリンさん、フィリアさんとの旅を続けていきたいです」
後半は少し遠慮がちに言う。
俺にはティアの決断が王族として正しいのかどうかは分からないが、今はパーティーの仲間である以上その決断を後押ししたいと思う。
それに、何だかんだティアが自分と行動をともにしたいと言ってくれたことが嬉しくもあった。
「そういうことなら一つ案がある。ティアは今俺が『王女』を持っていていつでも自分が王女に戻れるから悩んでいるんだろう?」
「はい、そうですが……もしかして……」
ティアははっとしたように息を呑む。
「『王女』を別の人に渡す」
「なるほど! 確かに『王女』は私である必要はありませんし、それに他の方であればエルム公やロシュタール公もすぐに仕掛けてくることはないかもしれませんね」
全く別の人が「王女」だった場合の反応は予想しづらいが、王族や貴族であれば隠し子を作ることも珍しくない世の中なのでそう思わせることは出来るかもしれない。
そしてそれで周辺の人々や小領主をまとめるにはプラスになるはずだ。
一方、少なくとも大貴族はいきなり「そいつを攫って結婚しよう」とはならないはず。
「でも一体誰に?」
「うーん、俺はレセッタが向いていると思うが、とはいえあいつが『王女』になってくれるだろうか……?」
能力的には向いてそうな気がするが、どう考えても嫌がるだろう。
そんな都合のいい人がいるのだろうか?
「まあそれはレセッタとも相談してみようと思う」
「分かりました」
「最後にもう一度確認するが、ティアはそれでいいんだな?」
「はい、その方がいいです」
「分かった、そういうことなら街の人々に、俺たちに協力してくれるので集まってくれるよう呼び掛けてくれないか? 伯爵と戦うことになったことは伏せて、あくまで人手が欲しいということだけ伝えてほしい。俺はレセッタに話にいく」
「分かりました」
ティアは晴れ晴れとした表情で頷く。
こうして俺は再びレセッタに会いにいくのだった。
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