勝利と敗北
「リオナ、もし俺を主人だと認識しているのであればまずはドラゴンを倒せ!」
が、俺がそう叫んだときだった。
ドラゴンが吹いた炎のブレスがティアの防御魔法を粉砕し、リオナに襲い掛かる。
「きゃあっ」
彼女は反射的にブレスを避けようと体を動かす。次の瞬間、俺とリオナの間は灼熱の炎によって遮られていた。
「リオナ!」
呼びかけてみるが声が聞こえてるのかはよく分からない。
俺はこれまでリンに強制的に何かの命令をしたことはなかったので「奴隷」の効力が発揮される詳細な条件は分からない。
姿が見えていないといけないのか、声が聞こえないといけないのか。
「リオナ、ドラゴンを倒せ!」
必死に命令するが、その声が届いているのかも定かではない。炎のブレスはそこら辺に燃え広がり、そもそもリオナが無事なのかすら分からない。
しかも遠くではリンがドラゴンと戦っているものの押されている光景が目に入ってくる。リンたちはいくら強化したとはいえ、そもそも職業は一つしか持っていない。
強職業をいくつも持っていたリオナに比べると戦力が劣るようだった。
さすがに自分の仲間を放ってリオナに構っている訳にはいかない。
「くそ、あと一歩だったかもしれないのに!」
仕方なく俺は剣を抜くと炎の間を駆け抜けてドラゴンの方へと向かう。
「グアアアアアアアアアアアア!」
ドラゴンは咆哮を上げながらこちらに向かって長い尻尾を振ってくる。リンはたまらず回避のために後ろに飛びのく。
「ティア、フィリア、強化を!」
「エンチャント!」
「アイシクル・ウェポン!」
すかさず二人から強化魔法が飛び、俺の剣が強化される。
俺は迫りくる尻尾に向かってその剣を振り降ろす。
ズブリ、と鈍い感触と共に剣が鱗を突き破って尻尾の中へと沈んでいく。
ドラゴンは痛みと驚きにより再び声をあげて体をばたつかせる。しかし尻尾に食い込んだ剣は外れない。
「ポイズン・ウェポン!」
そこへフィリアが毒属性の魔法を俺の剣にかける。剣が緑色に光り、尻尾の中へと毒が入り込んでいく。
その隙にリンはドラゴンの背後に回り、背中から斬りかかる。
カキン、カキンと音を立てて剣が鱗にぶつかるが、傷がついていない訳ではないようで、体液のようなものが漏れ出ている。
ドラゴンはそんなリンを追い回そうとするが尻尾を剣に縫い付けられる形になっていてうまく動けないせいか、リンに追いつくことは出来ない。
しかもいたずらに体を動かしたせいで、尻尾から侵入した毒が体にゆっくりと回っていく。
やがてドラゴンも致命傷を与えてこないリンよりも俺をどうにかしなければと気づいたのだろう、こちらに向かってブレスを吐こうと身構える。
「プロテクション!」
「アイス・シールド!」
すかさずティアとフィリアにより防御魔法が張られた。
次の瞬間、ドラゴンの口から灼熱のブレスが吐き出される。
リオナとの戦いから連戦になっていたのが堪えたのか、それとも毒が回っているせいか、先ほどまでと比べてブレスの勢いは弱い。
フィリアが張った氷の防御魔法を砕いたものの、ティアの防御魔法によって阻まれてしまう。それを見てドラゴンは驚愕の表情を浮かべた。
尻尾による物理攻撃は反撃され、さらにブレスという必殺の攻撃が防がれたことに絶望したのだろう。
もはやそれ以上に強い攻撃手段はないに違いない。
「これでお前は終わりだ!」
驚いているドラゴンに俺は斬りかかる。
すぐにドラゴンは鉤爪で応戦するが、キィン、という甲高い音とともに鉤爪は俺の剣とぶつかって折れてしまう。
もはやドラゴンに俺を倒せる手段はない。
危険がなくなった俺は安心してドラゴンの喉元に潜り込むと、一番柔らかい部分に剣を突き立てる。
ドラゴンは一生懸命身をよじってかわそうとするが、反撃されないと分かった俺は当たるまで剣を何度も繰り出す。
やがて俺の剣がドラゴンの喉元にずぶりと突き刺さる。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
するとドラゴンは断末魔の叫び声をあげてその場に崩れ落ちた。
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