武器
「ちょうどリンの剣も折れてしまったし、武器を作ってくれないか?」
元々フィリアの調査に協力するのは武器を作ってもらうことの対価だった。フィリアの職業は「学生」だが、錬金術を学んだとはいえ実用出来るレベルに達しているのはすごい。恐らく人一倍色々なことを学んだのだろう。
「……分かったわ」
ダンジョン内で俺たちが強さを見せたからか、フィリアは最近何かと悩みがちだった。最悪、彼女が帰る直前にお金でも渡して無難に報告してくれるよう頼んだ方がいいかもしれない、などと俺は考える。
「とりあえず剣が折れたリンが優先で頼もう」
「はい、ありがとうございます」
「錬成と言っても、私は一から作るというよりは既存の武器に魔術的な強化を施すのが得意なの。だからどういう武器がいいのかを教えてほしい」
「そうですね、大きさは今使っていたのよりも一回り小ぶりで、軽くて丈夫なものがいいです」
「そう言えばリンさんは力で圧倒するよりも速さを生かした戦い方だったわね。そういうことなら軽量化の他に素早さが上がる術式をかけておくわ」
「ありがとうございます」
あとはリンとフィリアに任せても良かったが、せっかくなので俺とティアもフィリアが何をするのかを見守ることにする。
フィリアはリンと一緒に街の武器屋に向かうと、そこでリンが指定した大きさの剣を買う。
「リンさんからとは聞いたけど、材料を買うならまとめて買っておいた方が楽だわ」
「じゃあティアの分は出来るだけ魔力の効率がよくなる杖を頼む」
回復魔法や防御魔法は威力も大事だが、ティアの魔力が高いので道具で強化する必要はあまりない。むしろ少ない魔力で魔法が使えるようになった方が使える回数が増えてパーティーでの戦いにはありがたい。
「分かりました」
「俺は……」
俺は店内を物色し、適当に一番大きそうな剣を手に取る。元の俺だったらおそらく持つだけで動けなくなっていただろうが、今の俺はそれを軽々と振り回すことが出来る。改めてとんでもない力だと感じるが、俺自身が強くなることはこの力の一部に過ぎないという思いもある。
「これを頼む」
フィリアに大剣を見せると、彼女は少し驚く。
「あなたはそれを使いこなせるの?」
「ああ」
今後さらに俺が強くなることを考えるともっと大きくてもいいかとも思ったが、店にない上に狭い空間での戦いになれば取り回しが悪くなってしまうから抑えた方だ。
「そ、そう。悪いけど私は持てないから自分で持って帰って」
その後フィリアは魔道具やで強化に使う素材を買い込んで宿に戻る。ちなみにティアは今使っている杖をそのまま強化してもらうことにした。
フィリアは武器の近くに強化素材の宝石や水晶などを置いていく。そしていくつかの呪文を唱える。すると素材は輝きながら剣に吸い込まれていった。
「すごい……」
武器を強化するのを間近で見るのは初めて見るので俺たちは素直に感心する。
「別に大したことないわよ。『錬金術師』の人ならもっとすごい強化したり、一から武器を作りだしたりできるから」
謙遜というよりは本心なのだろう。
元から「錬金術師」の職業を持っていれば、勉強しただけのフィリアよりももっとすごいことが出来るのだろう。
「でも、学園にいる魔術師なんてみな俺たちには手の届かないような存在で、貴族とか王宮に行くようなやつらだろう? それに敵わないのは仕方ないんじゃないのか?」
「でも、職業さえ違うものであれば彼らにも勝てたと思うと悔しくて……」
フィリアが急に愚痴っぽいことを言うので俺は少し驚く。
彼女からすれば俺は調査対象に過ぎないというのに。
「世の中そういうものだ」
「『錬金術師』とか余ってたりしない?」
「悪いけど、魔法系の職業は貴重だから売ってやることは出来ない」
「そう……」
彼女は残念そうにうなだれたが、やがて何かを思い出したように尋ねる。
「あなたは職業を売買するだけでなく強化のようなことをすることも出来るんじゃない?」
「……出来るとすれば?」
リンとティアの強さ、そして俺の力を見れば、知識が豊富な彼女はその結論に辿り着いても無理はない。
「もしそんな力があればこんなことで悩まなくてもいいのになって」
やはりフィリアにとって、同じ条件であれば自分も他の生徒に負けないという自負があるのだろう。
これはうまくやればフィリアを俺の味方に引き込むことが出来るかもしれない。
「あくまで仮定の話だが、俺に秘められた能力のようなものがあったとして、その力を使うのは仲間、もしくはそれ相応の対価を払ってくれた人に限られる。そうは思わないか?」
「……それはそうね」
もしもフィリアがアルト公爵に俺たちが望むような報告をしてくれると言うのであれば。
彼女が信用に足る人物であると分かればこのまま俺たちの仲間になってくれるのでも構わないが……それはもう少し様子見か。
「とりあえず新しい武器を完成させるわ」
そう言って彼女は仕事に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。