悩むフィリア
ダンジョンから帰ってきたフィリアはずっと悩んでいた。
三人ともあまり話したがらなかったが、アレンもリンもティアも常人離れした力を持っていることは確実と言ってよかった。
とはいえ、「あなたの強さの秘訣を教えてください」と言って素直に教えてくれる冒険者はなかなかいない。それが、“職業を売買する”という謎の能力を持つ人物であればなおさらだろう。
宿に帰るとき、アレンとティアが部屋に戻っていくのを見てフィリアは意を決して話しかける。
「リンさん」
「何でしょう?」
「ちょっとお話しませんか?」
「……まあいいですけど」
リンはフィリアを少し警戒した目で見る。彼女からすればフィリアは自分たちの力の秘訣を探り出そうとする警戒すべき相手なのだろう。
あまり他人に聞かれたくないのでフィリアはリンを誘って街中のあまり人気のないところを歩く。
「あなたたちの力の秘訣を教えてくれない? 情報次第ではある程度の見返りは容易出来るし、あなたほどの腕なら場合によっては公爵閣下に言って、素晴らしい待遇を用意出来ると思うけど」
が、リンはすぐに首を横に振った。
その速さにフィリアは驚く。
「もしかして私が嘘を言っていると言っている?」
「それもありますが、仮に本当だとしても、私がご主人様以外にお仕えすることはありません」
「一体なぜ? やっぱり彼がすごい強い力を持っているから?」
「そうですね、色々ありますが、すごく大ざっぱに言えばそこに帰着するのかもしれません。フィリアさんはこの世界が不条理だと思ったことはありませんか? 例えば私は十五まではごく普通の育ち方をしたのに、『奴隷』という職業を授かった瞬間扱いが一変しました」
話が思っていたのと違う方向に進み、フィリアは困惑する。
とはいえ、今のリンは何かを話してくれそうな雰囲気があった。それに、フィリアもそれについては思うところがある。
「それは……そうかも。私は学園で一番座学の成績がいいけど、職業が『学生』だから、『魔術師』系の職業を持っている人たちからは常に下に見られている節はある。それに、どれだけ頑張っても実技で彼らに勝つことは無理だし」
「そうなんです。神様は本来そういう方に『魔術師』のような職業を与えるべきだし、普通に生きてる人に『奴隷』なんて職業を与えてはいけません。ですが社会ではそれが正しいこととしてまかり通っています」
「まあほとんどの人は与えられた職業が正しいと思っているからね」
もし合っていない職業をもらっても「努力不足」「信心不足」と思うか、「いずれこの職業を与えられた意味が分かるときがくる」と思う人が一般的だ。
フィリアも「お前は所詮『学生』だから『魔術師』の真似事なんておこがましい」と何度も言われたことがある。
「ですがご主人様であればこんな世界を変えてくれるかもしれないんです」
「え?」
フィリアは困惑したが、確かに職業を売買する力があれば理論的には人は自分がほしい職業を持つことが出来るようになる。
もちろんただ職業を売買するだけなら人気の職業が足りないというようなこともあるかもしれないが、もしかするとそれ以外の力もあるのかもしれない。例えば職業を作り出すとか、もしくはより強いものにするとか。
リンの目には強い光が宿っており、彼女がアレンのことを強く信じていることは確かだった。それこそ、グローリアの神官が神のことを語るときのような。
「ですから私は何があってもご主人様についていきますよ」
「そう……」
それを聞いてフィリアはリンからこれ以上の情報を聞き出そうとする努力が無駄であることを悟る。
でも、逆に考えれば世の中にはそういう、無限の可能性に満ちた力が存在するとも言える。リンの話を聞いてフィリアはそれに興味を抱いてしまった。
もし本当にそのような力があるのであれば、学園で学べる既存の魔術に関する学問なんかよりもそちらの方がよほど興味がある。
「一つだけ教えてください」
「何でしょう?」
「あなたのご主人様はどうしたらその力を私に教えてくれると思う?」
「さあ……。でも、ご主人様は地位や金よりも自身の力について知ることを優先しているので、どんな条件を提示されても部外者に教えることはないでしょうね」
「そう」
落ち込みつつも、フィリアは考える。このまま調査結果を持って帰ればそこそこの報酬はもらえるかもしれないが、どうせまた他の魔術師に見下される生活が続くだけだった。それならもっとアレンの力を知りたい、と。
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