第81話 未来の話



「傷はもう大丈夫?」


マリエルと紅茶を飲みながら、ずっと心配だったことを聞いた。


「たまに痛むことがありますが、仕事をする上で問題はありません。」


仕事の心配じゃなくて、マリエルの心配をしたんだけど、、、とは恥ずかしくて言えなかった。


「辛い時はすぐにオリバーに言うんだよ?

アンのために無理をすると、アンが悲しむ。」


「お嬢様はお優しい方ですからね。」


アンのことを話す時はマリエルの表情が緩む。

本当にアンを大切に思ってくれているし、マリエルが居れば妹は大丈夫だ。


「マリエルは、、、アンが王妃になったら王城へ行くの?」


出来れば王城にも着いて行って欲しい。

しかし、無理強いはしたくない。


「お嬢様が望む通りにします。

共に王城へと仰れば王城へ、不要だと仰ったら、、、考えていませんでした。

その時はお屋敷へ残るか、田舎へ帰ります。」


「マリエルの故郷はここから遠いの?」


「お屋敷からだと馬車で、、、1週間あれば確実に着きますかね?」


思っていたよりもずっと距離がある。

彼女が故郷に帰れば、簡単には会えなくなってしまうのだな、、、。

そう思うと、胸が締め付けられる思いだ。


「故郷でやりたいことは?」


「特にありません。

私の実家は畑をしていますから、手伝いをすることになるか、、、もしくは、、、。」


そこでマリエルが黙ってしまった。

言いにくいことなのだろうか?

僕を見ていた彼女の視線は、自身の手元にある紅茶へと落ちる。


「もしくは、、、何?

聞いてもいい?」


「、、、貰ってくださる方が居れば結婚することになると思います。

主人となる方の家業をお手伝いすることになるかもしれませんね。」


彼女は視線の先にあった紅茶を一口飲み、今度は庭の向日葵へと視線を移した。

綺麗な横顔に見惚れてしまう。


言ってもいいのだろうか。

僕の気持ちを彼女に話してもいいのだろうか。

彼女の本当の幸せはどこにあるんだろう。

故郷に帰り、故郷の男性と結婚することが幸せなのかもしれない。


「マリエル、君が本当にしたいこと、望むことはある?

僕とアンを助けてくれた君に恩返しがしたい。

僕に出来ることがあれば何でもするよ。

君は命の恩人だ。」


言いたいことが頭の中をぐるぐると回る。

なかなか言葉にすることができない。

考えて、考えて、考えてやっと捻り出した答えがこれだ。


「私の望むこと、、、ですか、、、。」


マリエルが考え込んでしまった。

難しい質問をしてしまったのかもしれない。



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