第70話 謝罪



朝、屋敷の前で待っていると王城の馬車が2台やってきた。

前の馬車に殿下、後ろの馬車にはエミリーが乗っているようだ。

僕の隣に立つアンは不安げな表情をして、左手の薬指を胸の前で握りしめている。

殿下から頂いた婚約指輪は彼女を安心させるアイテムになったようだ。

悔しい。



「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。」


殿下が僕たち家族に挨拶をする。


「こちらこそ殿下の貴重なお時間を頂き、ありがございます。」


父が挨拶を返す。

殿下が一緒に馬車から降りた騎士に合図すると、騎士が後ろの馬車に向かった。


馬車の扉が開き、エミリーが出てきた。

学園では髪を巻き、華やかにしていたが今はボサボサだ。

メイクもしていないようだった。

制服を着ているので違いがよくわかる。


俯きながら、一歩一歩僕らに近づく。

周りは騎士が固めていた。


「フェイン伯爵様、エドワード様、アン様、この度は本当に申し訳ございませんでした!」


目の前に来ると、深く深くお辞儀をして大きな声で謝罪した。


「殿下から事情は聞いています。

先程の謝罪から誠意は感じました。

屋敷の中で話を聞きましょう。」


父が屋敷へ入ることを許可したので、全員で応接室へと向かう。


騎士たちはエミリーのそばから離れない。

彼女が何かしようとすれば、すぐにでも取り押さえられるだろう。


応接室では父と僕がアンを挟んで席についた。

向かいにはエミリーが一人で座り、騎士が横、背後に立つ。


「僕はただの付き添いですから。」


そう言って殿下は部屋の隅で椅子に座った。


「この度は本当に申し訳ございませんでした。

騙されていたとは言え、私のしたことは重罪です。

どんな処罰も受ける覚悟です。」


ブリブリとした声ではなく、サラと話していた時のようにスラスラ話していた。


「娘に薬を飲ませようとしたこと、代わりに飲んだ侍女が刺されるきっかけになったことは決して許せることではない。

あの事件では我が家の優秀な護衛が一人亡くなっている。

娘と息子が謝罪の機会を与えたいというから同席したが、私としては君の顔すら見たくはない。」


父から厳しい言葉がエミリーに放たれる。


「私もお許し頂けるとは思っておりません。

ただ、直接謝罪をしたくて伺わせて頂きました。

アン様、エドワード様、謝罪の機会を与えて下さりありがとうございます。

本当に申し訳ありませんでした。」


エミリーの手は震えていた。

心から反省しているのだろうと声色から伝わってくる。


「受け入れるつもりはありません。

しかし、僕も貴方の口から直接謝罪聞きたかったので殿下からの申し出を受けました。」


僕は自分の気持ちをそのまま言葉にした。


「アン、お前から言いたいことはあるか?」


父がアンに話を振った。


「私は、、、。」


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