第58話 悲報



目覚めたのは次の日の朝だった。

自室のベッドに寝かせられていて、そばにはオリバーが居てくれた。

体が重い、頭もズキズキする。

それから2日ほどはベッドからほぼ降りられない生活だった。


「そんな、、、。」


悲劇から3日後、アンが部屋を訪ねて来てくれた。

アンの口から死者が出たことを聞いた僕はショックで言葉を失った。

あれだけの出来事だ、覚悟はしていたつもりだった。

死者が出てもおかしくないとは思っていたつもりだった。

でも今起きたばかりのベッドにもう一度倒れてしまいそうになる。

目眩がする。


「お兄様、お気を確かに、、、。」


泣いたのだろう、アンの目が腫れている。

彼女にとっても辛い出来事で、話したくないだろうに僕に伝えてくれた。





「陛下が、、、お亡くなりに、、、。」


王妃様を庇ったことで、全身に酷い火傷を負ったことが原因だった。

瓶の破片が背中にいくつも刺さっていたそうだ。

治療の甲斐なく、昨晩亡くなった。


「陛下が愛した王城の教会で葬儀を行うため、急いで修理が行われています。」


アンの言葉が耳に入ってくる、理解も出来る。

だが受け入れられない。

出そうになる涙を堪えることで精一杯だ。

アンの前で泣くわけにはいかない、僕より辛い人の前では泣かない。


「アン、エドワード、殿下がいらっしゃった。

すぐに応接室に来られるか?」


僕の頭を現実へと引き戻したのは、扉の向こうから聞こえた父の声だった。

すぐに解毒したので、父は僕より1日だけ回復が早かった。




「フェイン伯爵、エドワード様、そしてアン、たくさん迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんでした。」


応接室に入ると、殿下が僕らに謝罪した。


「殿下、頭をお上げください。

娘を守って頂いたこと、本当に感謝しています。

殿下から謝罪して頂くことなど何もありません。」


「ありがとうございます、伯爵。」


殿下の目は腫れ、酷い隈が出来ていた。

父親である陛下を亡くしたばかりだ、無理もない。


「お体は大丈夫ですか?

王城から離れても良いのですか?」


アンが心配そうに殿下に声をかける。


「僕は大丈夫だよ。

城の方は今、王妃である母が指揮を取ってくれているんだ。

母も辛いとは思うが、僕はどうしても君に聞かなきゃならないことがあるから。」


殿下の目は真っ直ぐアンを見ている。


「私も、殿下にお話ししたいことが御座います。

お父様と、お兄様にも、、、。」


アンの決意に満ちた表情は僕が守ってきたか弱い妹ではなかった。



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