第27話 デート



「お嬢様が訪れたいと仰っていたのはあのお店です。」


仕立て屋の前のカフェに入り、お茶を楽しむ振りをして様子を伺う。

僕は帽子と眼鏡、マリエルは眼鏡と頭にスカーフを巻いて変装している。

パッと見て僕らとはわからないだろう。

テオは大柄で目立つので同じ店の奥で待機してもらっている。


「アンは仕立て中か?」


店の窓からは殿下しか見えない。

アンは奥の部屋でドレスを仕立てている最中なのだろう。

殿下と店の主人が何やら話している。


「殿下が店を出るようですよ?」


主人と会話をした後、殿下は店を出た。


「別の場所でアンを待つことにしたんじゃないか?

街中を視察しているのかもしれないね。」


ドレスを仕立てるのには時間が掛かる。

サイズを測り、好みの色やデザインを聞き込み、実際に飾りを合わせてみたりする。




「こちらお好きだと思います。」


マリエルが食べていたクッキーを一枚僕にくれた。


「ありがとう。」


店の様子に変化がないので、僕とマリエルは紅茶とお菓子を楽しんでいた。

知らない人から見たらデートみたいに見えるんだろうか、、、。

なんて口が裂けても言えない。

マリエルに何をされるかわからない。


「知らない方から見たらデートでもしているように見えるかもしれませんね。」


マリエルの言葉に咽せる。

クッキーが口から飛び出そうになるのをハンカチで押さえて耐える。


「あら、何を動揺なさっているんです?」


悪戯に笑うマリエルはやはり美しい。


「あまりジロジロ見ないで頂けますか?

不快なので。」


「ごめんね?

君の笑顔が美しくてつい見惚れてしまった。」


僕だけがドキドキしているのは悔しいので、マリエルのことを褒めてみた。


「ありがたいお言葉です。」


さすがマリエル、涼しい顔は崩さない。



僕らが攻防をしていると、殿下が足早に店に戻ってきた。

いつも爽やかな殿下が額に汗をかいている。

仕立てが終わるのに間に合うか不安で走ったのだろうか?


「アン様楽しそうですね。」


殿下が店に入るのとほぼ同時にアンが奥の部屋から出てきた。

店の主人と殿下と3人で話す姿が楽しそうだ。


「殿下と話している時のアンが一番美しい。

女神を見ているようだ。」


「エドワード様は本当に気持ち悪いですね。

アン様に嫌われればいいのに。」


「僕の女神は心まで美しいんだ。

自分を愛する兄を嫌いになったりはしないよ。」


マリエルの蔑んだ目をしているが、いつものことなので気にならない。



店を後にした二人は殿下の趣味である紅茶、アンの好きなケーキを買って王城へと向かって行った。


僕とマリエル、テオも屋敷へ戻る。



後日、この日のことで事件が起きていたことは知らなかった。


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