第15話 エミリーの奇行



最初の会合から1週間が経った。

今日は父と僕だけが王城へと向かう。


「先週受け取った書類を直接陛下に渡しに行ってくるよ。」


アンにはそう言って屋敷を出た。

笑顔で見送ってくれるアンを見て、離れがたくなった。



王城へ着くと先週と同じ部屋に通される。

今日の紅茶はオレンジが浮かんでいて、お菓子も前回とは違う物が用意されていた。

普段甘いものは食べない父も、王城のお菓子の美味しさには夢中だ。


「お待たせ致しました。」


そう言って殿下が入室された。

僕と父は起立して挨拶をする。


「本日父は公務が入ってしまい、同席出来ないことをお許しください。」


陛下は本来とてもお忙しい方だ。

前回のように長い時間を取って話してくれることが珍しいのだ。

急な公務も多いと聞く。


「殿下、体調を崩していらっしゃいますか?」


父が殿下の体調を気にする。

入室された時から僕も気になっていた。

顔色が悪く眠れていない様子だし、少しやつれたような気もする。


「お気遣い頂きありがとうございます。

僕は大丈夫です。

アンの様子は変わりないですか?」


どう見ても大丈夫そうじゃないのに、自分以上にアンを気にかけてくれている。


「私もエドワードも注意深く見ていますが、屋敷での様子には変わりはないです。

侍女のマリエルからも何も報告はなく、穏やかに過ごしているようです。」


父の言葉に殿下がホッとしている。


「学園でもアンには変わった様子はないです。

彼女に何も危害が加わっていないのなら良かった、、、。」


アンには?

まさか!!!!!


「殿下、エミリー嬢には変わった様子があるのですか?」


僕の質問に殿下が頭を抱える。


「僕が王城へ招待しないので、学園で接触しようとすることが増えました。

関わらないよう努めているのですが、逆効果になっているかもしれません、、、。」



あの日から王城へ招待することもなく、殿下から声を掛けることもしていないそうだ。

しかしそんなことで諦めるエミリー嬢ではなかった。



「殿下、助けて下さいまし!!!」


と言って何者かに追われている振りをして殿下に抱きついたり、


「こちらにいらっしゃったんですね!」


と、どこにいても見つけられたり、


「殿下は私のことがお嫌いなのですか?

そうですよね、平民の私が殿下と親しくしようなどと自惚れていましたよね、、、。

殿下とお話した日々を大切に生きていこうと思います!!!」


などと他の生徒たちが大勢いる前で泣きながら叫んだりと、


大 暴 走 !!!!!!!



「それは、、、大変な思いをされましたね。」


父がエミリーの奇行にドン引きしているのがわかる。

僕がアンに愛を伝えている姿を見ている時と同じ顔をしているからだ。


「もう、どうしていいのやら、、、。

僕が彼女を邪険に扱えばアンに危害が及ぶ可能性がありますし、そもそも彼女の奇跡が偽物だとわからなければ避難することもできず、、、。

平民の生徒を避けている嫌な王子として過ごすしかないのでしょうか、、、。」


次期国王である殿下が平民である彼女を蔑ろにし、差別しているという構図になることを彼女はわかってやっている。

わざと人がいる前で殿下に避けられていると発表しているようなものだ。


「何かしら行動に移してくるとは思っていましたが、ここまでとは、、、。

これは早急に対策を考えねばなりませんね。」


父が考え込んでいる。


「殿下、私に一つアイデアがあるのですが聞いて頂けますか?」


僕がそう言うと、二人が同時にこちらを見る。



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