第9話 王子と彼女
まず殿下とエミリーとの出会いから話は始まった。
「彼女との出会いは学園でした。
エドワード様は昨年ご卒業されたのでご存知ないとは思いますが、彼女は今年度学園へと編入してきたのです。」
現在殿下とアンが通う王立のロヴェイユ学園は、12歳から18歳の主に貴族たちが通う学園だ。
僕は3ヶ月前の3月に卒業している。
「彼女はどこの家の者なのですか?」
同じ年頃の貴族の娘、アンも僕も一度も夜会で姿を見ていないのが不思議だった。
「彼女は平民です。
しかし、聖女の痣を持っているので特別に学園への編入を許可されました。
アンが祈る大教会とは別の教会で祈っていたところを、司祭が痣を見つけ保護しました。
身寄りが無かったため、今も教会で暮らしています。」
身寄りのない女の子がたまたま痣を発見され、殿下のいる王立学園へ編入し、殿下の婚約者になるなんて、シンデレラもビックリのストーリーだ。
「最初は噂を聞くだけでした。
エミリーという平民の女の子が編入してきたらしい、と。
聖女の痣のほうは教会が調査してくれていたので、我々も直接会ったことはなかったのです。」
聖女と教会には強い結びつきがある。
アンが毎日祈るのも教会だし、痣が発現した時も教会へ行った。
王族よりも教会のほうが聖女のことには詳しいのだ。
「エミリーが編入してすぐ、学園ではちょっとした事件がありました。
アンから聞いていないですか?
汚れていた噴水の水が一瞬にして綺麗になったという話を。」
噴水の水?
ああ、確かにアンから聞いた。
学園の門を入ってすぐにある大きな噴水、あれが汚水を吹き出すようになったと。
気にかけて様子を見に行くと、すでに綺麗な水に変わっていたと言っていた。
「実はあの噴水の水を浄化したのがエミリーなのです。
あの日僕は王立の学園なので、管理も王族の務めと思い噴水に向かいました。
彼女が噴水に手を入れると瞬く間に吹き出す水が綺麗になりました。
奇跡を見ているようでした。」
手を入れただけで水が綺麗になる?
魔法か?それはありえない。
隣国は空気中に魔素というものが溢れ、それを使って魔法を使うと聞く。
だがこの国にはほとんど空気に魔素は含まれていない。
隣国の城に仕える魔法部隊の隊長でも、この国では魔法を使えない。
「この現象に驚いた僕は、自らエミリーに声を掛けてしまった。」
殿下は悔しそうに俯き、膝に置いた手を固く握っていた。
「祈りを込めただけですわ!」
水の浄化方法について聞くと、エミリーは笑ってそう答えたそうだ。
「僕はお礼にと思い、エミリーを次の日のランチに誘いました。
学園の管理のために王族のみが使える部屋が存在するのをエドワード様はご存知ですよね?
そこで共に食事をしました。」
記憶を辿り、部屋を思い出す。
学園の管理のための書類、各委員や部活への費用の書類、生徒からの意見の書類、教員への報告書など、たくさんの書類がある部屋。
父さんの書斎のような部屋。
来客用の椅子とテーブルも確かにあった。
僕とアンも何度か訪れたことがある。
「ランチの場で初めて彼女の痣を見ました。
右の手首にある痣は、過去にアンが見せてくれた痣と同じ物でした。
彼女とは痣のこと、教会での祈りのこと、学園への意見などを話しました。
貴族社会は縦社会でイジメのようなものもあるから個人ロッカーには鍵をとか、差別やイジメを助長する発言が教員からも見られるとか、彼女の意見はどれも学園の運営への参考になるものでした。」
なるほど、学園への意見を伝えることで自分の聡明さを殿下にアピールしたわけか。
「彼女の意見を聞く為、何度も部屋へ招待するうちに僕と彼女の仲が学園で噂されるようになりました。
彼女が編入してから一ヶ月ほどのことです。」
それは知っている!!!!!
アンは僕には言わなかったが、信頼する侍女には話していたようで彼女から聞いた。
最愛の妹を傷つけた殿下とエミリーのことを憎んだが、直接言われていなかったので何も出来なかった。
アンにありったけのプレゼントをし、言葉や態度で愛情を注ぐことしか出来なかったあの事件!!!!!
「その頃からです。
アンについての噂を耳にするようになったのは。」
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