第18話 キス - KANADE -
目を開くとすぐ傍に
そんなことにはもうすっかり慣れていたけど、それでも触れたくて右星の頬に手を乗せる。
額に掛かる髪を掻き上げるように撫でて、その感触を楽しむ。
今日の右星は弱い自分を少しだけ私に見せてくれた。心の中には誰にだって傷の一つや二つあって当然だろうけど、右星は持ち前の明るさでいつもそれを上手く隠している。
でも、それを打ち明けてくれたということは、私にそれだけ心を開いてくれて、信じてくれているということだろう。
いつも右星に頼ってばかりの私だけど、少しは右星にとっても支えになれている気がして嬉しかった。
勢いのまま同棲生活を始めて、時々壊れているのかもしれないと思うくらい右星は一途に私を求めてくれる。
右星は女性同士であるというマイノリティとしての後ろめたさなんか全く気にならないと、私にいつだって触れてくれる。自分がこんなにも求められることの喜びを感じられる日が来るなんて、右星とつき合うまで考えもしなかった。
自分がそんな幸せの中にあるからこそ、田町先輩にも幸せになって欲しくて私は口出しをしたんだろうと思っている。
昔の私にとって田町先輩は憧れの人で、何もかもが素敵だとしか思わなかったけど、社会人になって再会して、先輩も普通の女性であることに気づいた。
強い部分もあるけど、弱い部分もある。見た目がどうであれ、先輩は私と変わらない一人の女性だった。
まっすぐに田町先輩のことを好きだという
相阪さんなら田町先輩の隣で繊細な田町先輩を守ってくれるかもしれないと期待をしたけど、私が期待したところで上手く行くとは限らない。
人と人の想いはそんな簡単なものじゃなくて、上手く話が進むわけがなかったな、と思い返してみて溜息を吐く。
「
どうやら右星は目が覚めていたらしく、体を伸ばして私の顔の近くに寄ってくる。
「うん、何でもないよ。右星が調子に乗るから疲れたなっていう溜息」
「今日は楓奈の方が積極的だったじゃない」
「右星に甘えたかったから」
素直に口にすると、右星に唇を塞がれる。
右星は私の胸を触るのも好きだけど、実はそれ以上にキスも多い。大体どのタイミングでされるかはもう私も分かっていて、驚くことはあまりなくなっていた。
「いっぱい甘えていいよ」
お返しとばかりに右星の唇にキスを返すと、右星からもまたキスが返されて止まらなくなる。
キスをしあっている内に、それだけで抑えきれなくなって、体を求め合う。
もう何度こうして右星と肌を重ねただろう。もうすぐ同棲を始めて1年だから、トータルで365回に近しい数字くらいになってる気はするけど、肌を触れ合わせる温もりが心地よくて、飽きるなんて感覚はなかった。
右星は毎日毎日がちょっと違う右星で、でもどの右星も私を愛してくれる。
首筋に腕を回すと、どうしたの? と聞かれて目の前にある右星の額に唇をつける。
「もしかしたら右星って格好いいのかなと思って」
「もしかしたらって何!?」
「ほら、日頃の行いがあるから」
「だって楓奈といっぱいエッチなことしたいんだもん」
「今日の格好いい右星を全部帳消しにする発言じゃない」
「ええっ!?」
右星はやっぱり右星だなと思いながらも、そんな右星がやっぱり大好きだなとその日、私は再確認した。
何があっても右星は私の傍にいて、私を元気にしてくれる。辛いことがあっても、右星がいてくれれば乗り越えられる、そんな気がしていた。
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