第112話互いの苦労




我が家に、桂瞳かつらひとみが引越し業者と共にやってきた。

俺と瞳は、玄関で照れながら見詰め合っていた。


「あの、荷物を運び込んでいいですか?」


「ああ、どうぞ運んでください」


空き部屋は沢山あったので、彼女が好きなように家具を配置。

あそこにはこの箪笥を、こっちの食器棚はここにと指示が飛び交っていた。




あれは1ヶ月前のことだった。

従魔らに褒美として、酒を振る舞った。

酒で酔ったせいなのか、誰かが俺の2リットルのお茶に酒を入れてしまった。

カレーライスを食べている途中で、テレビでキムチ特集をやっていたので、急にキムチが食べたくなった。

冷蔵庫からキムチを取り食べていたせいで、味音痴になってお茶をガバガバと飲んでいた。

俺は酒に弱い体質なので、すっかり酔っていた。


その時に彼女がやって来たのだ。

相当な覚悟があったのだろう。彼女の気迫に負けて入れてしまった。

従魔が居るのに、彼女を我が家に入れてしまい、従魔を見て驚いていた。

そして、今までの苦労や従魔のことを洗いざらい話した。

彼女を避けていたことが、引き金になったのか自然に話していた。


そして、何時いつしか彼女の愚痴を聞く羽目になった。

そこには、彼女の彼女なりの苦労があったのだ。


「何故、わたしの前から逃げていったの」


「どうして、わたしと向き合ってくれないの」


答えたかどうか分からないが、朝起きた時には彼女は俺のベッドで一緒に寝ていた。

彼女の話しだと、彼女が早く目覚めて俺の寝顔を見ていたらしい。


そして時たま会う事になったが、俺の全範囲探知で彼女が妊娠したことを知った。


俺の親と向こうの親は、昔からの付き合いだったせいで、結婚することになった。

弟には、1発を貰ったが「幸せにしないと、もっと酷いことになるからな」と言われた。


正式な結婚式は、出産後と成った。

パーティーも弟がリーダーを務めるらしい。

瞳は冒険者を引退宣言をすると言っているが、将来はどうなるか分からない。



村役場には、2人して婚姻届を提出に行った。


「あら、この人が奥さんになる人なのかい。ずいぶん綺麗な人だね」


「おばさん、早く受理してください」


「なによ、照れているのかい」


後ろの方では、鈴木課長やその他の人がコソコソと囁いている。

やはり瞳が美人過ぎることが話題になっていた。

瞳は、顔を赤くして下を向いている。




我が家へ帰ると、従魔らが出迎えてくれている。


『ママさんの腹には、おいらの仲間がいるのか?』


「そうね、仲良くしてやってね」


『大丈夫だよ。今は育児の仕方を見ていて勉強をしているんだ』


「そうなの、ピーは偉いわね」


『もっと褒めて』


「ピーは偉いわ」


『ピーだけじゃないよ。おいらも勉強してるよ』


「そうなの、あなたはスラでよかった」


『スライムのスラだよ』


「スラも偉いわよ」


『エヘヘヘ』


何故だか瞳にも念話が備わったみたいだ。

ステータスの支援スキルに念話が追加されていた。

妊娠が発覚してから、徐々に念話が出来るようになった。



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