第88話犯人が現れた




俺の顔をペシペシと叩く奴が居る。

ハッとして目覚めると、寝袋の上でピョンピョンと跳ねている。

寝袋に乗っかり叩いていたのは、ピーだった。


『誰かが来たよ』


「そうか、ありがとう」


むくりっと起き上がり寝袋から出ると、寒さが急激に体温を奪いだした。

防寒服を着込んで、テントを出るとまだ暗いが遠くに小さな明かりが見えた。


暗い中でも見える俺は、その人物の動向を見続ける。

腰に剣をさして、背負いバッグを膨らませて黙々と歩いている。


玉樹ダンジョンの前で一旦止まると、辺りを見渡して俺の方で止まり見詰めてくる。

俺はばれたのか?っと思ったが、男はそのままダンジョンへ入ってしまう。


精神把握で覗き込んだ結果。

魔物を倒して強くなりたいと、その事ばかりを考えていた。

実力はあると気配からも感じ取れる。


装備を整えて、急いでダンジョンへ駆け下りる。

ダンジョン前で一旦止まる。


「見つけ次第、集中攻撃を頼む。どんな攻撃をするか分からない相手だ。下手をするとこっちが負けるかも知れない」


『親分、大丈夫だよ』


『心配無用です。必ず仕留めて見せます』


アイの力強い言葉に元気付けられて、階段を下りてゆく。

全範囲探知では、1階層の中間点まで進んで魔物と戦っている。


俺は結界オーブに消音を念じて走り出した。

スライムは無視して先を急いだ。


奴の後ろ姿が見えた。アイの光線が絶え間なく発射続けるが何かが妨害している。

更に従魔らの総攻撃が加わったが、それでも耐えている。


俺は【暗黒球】を放った。

妨害する何かを破壊して奴に食らい付いて消滅。

やったかと思った瞬間に、俺はレベルアップをしていた。


レベルがLv116まで上がって。

支援スキルにエナジーと表示された。

このエナジーは一種の気力みたいな物で、それを相手にぶつけて混沌カオス状態させて死滅させる物だった。

このエナジーは物理攻撃や魔法攻撃にも防御力を発揮する能力があった。


そしてこのエナジーの最大の能力は、薄く張り巡らせて広範囲の相手を一気に始末出来る事だった。

これが地上での出来事であった場合では、勝負の行方は分からなかったかも知れない。


そして奴を見つけた瞬間から、精神把握で奴の考えを読み取っていた。



玉樹チベット族自治州は、チベット族が97.25%、漢族が2.56%の比率であった。

しかし、チベット族は虐げられていた。

この男は夜間に玉樹ダンジョンに忍び込んで、冒険者まがいな事を行ない生計を立てていた。


そして1階層でレアな魔物を倒した。

黄金のスライムだった。その時に支援スキルのエナジーを習得してレベルも一気にLv10まで上がった。

それでも男は、隠れてダンジョンに入って生計を立て続けた。


しかし、ある事件が起きた。

玉樹支部の職員が男の妹を襲い、激しい抵抗にあい誤って殺してしまった。

男の家族は妹しか居なかった。


その知らせを聞いた男は激怒して、玉樹支部を襲い職員と冒険者を殺し続けた。



そしてやって来た軍も、エナジーの広範囲攻撃に沈黙するしかなかった。



俺は無線で連絡をして、犯人を殺したことを伝えた。

これも中国ギルドの要望でもあった。


1時間後に先発隊がやって来て、犯人の遺体を回収している。

そして案内人を交えて、事情聴取されて2時間後にようやく開放。

勿論、犯人の内情は話していない。


エナジーの情報も秘密して、男が黄金のスライムを倒して手に入れた黄金の玉は、バッグから手に入てた。

なんと結界のオーブに黄金の玉が吸収されて、魔石を使わずに結界を自由に張れるようになり、大きさも10キロまで可能になった。

ただしどれだけの時間を張り続けられるのかは不明。



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