第77話猪野研究所




六甲の山をひた走ると、猪野研究所の隣接した家が見えてきた。

空いているスペースに軽自動車をとめると、全範囲探知で調べた。

家には猪野和也いのかずやしか居ないようで、呼び鈴を押して和也が来るのを待つ。


「母親は夕方まで帰って来ないから、心配しないで上がっていいぞ」


「ああ、分かったよ」


和也は椅子に座るなり、資料の束を渡してきた。


「その資料で分かるが、原子力発電1基分を最低100年もまかなえると出ている。あくまでも計算した結果だが、不確定な数値が出た場合は変わる。しかし【40年ルール】で考えれば凄い事だ」


「40年ルールてなんだ?」


「40年も原子力を使っていれば、配管も老朽化するだろ。事故のリスクが上がるんだ。04年に5人が死亡した美浜3号機の配管破断事故も老朽化が一因だ」


「そんな事故もあったのか?」


「今は都市部に魔石発電所が建つようになったが、原子力発電所は10ヶ所でいまだに使用されている」


「物流に魔石を使っているから、全国の電力が賄えないのか?」


「高級魔石で発電所が全て賄える。更に研究が進めば使用期間が延びるだろう」


和也は2時間近くも熱弁を語り、ゆっくりと座りなおして冷え切ったコーヒーを飲んでいた。

俺はバッグからメタルⅢのインゴットを取り出して、テーブルの上に置いた。


「なんだ、それは」


「このメタルⅢは、気力を使って空中に自由に浮かんで飛び回れるドロップ品だ」


和也は、おもむろにメタルⅢを掴み取って、突然にメタルⅢが浮かび上がり、1メートル浮かんで手を放してしまった。

落下した位置が悪く、おもいっきり尻を椅子の角にぶつけて転げ回っている。

仕方ないので膝で押さえつけて、ズボンをずらして低級ポーションを尻に掛けてやる。


「ズボンをずらすから犯されると思ったぞ」


恥ずかしながらズボンを上げてしきりに尻を触っている。

そして絨毯の上にあるメタルⅢを拾い上げて、手の上で少し浮かんですぐに手に落下。


「成る程、放れると落下してしまうのか?」


「どうだ、これで浮かせて乗れる自動車やバイクを作らないか?」


和也はあれこれ考え込んで、このモードになると話し掛けても無駄だ。

ようやく考えがまとまったようで、ニタリと笑って言い放った。


「分かった。親父の研究所に資金を貸してくれ、開発には資金が必要だ」


「いくらだ」


「そうだな、2億でどうだ」


「分かった。口座番号は」


「お前はもっと考えろ。親父にも相談してないのに信用し過ぎだ。取り敢えずこれは預かる」


「それ以外にも、メタルとメタルⅡだ。同じドロップ品だ」


メタルは硬い金属でメタルⅡは硬く軽い金属だと説明する。


「3つ並べると、全然見分けがつかないな」


マジックペンで1・2・3と印を付ける和也だった。



俺が家に帰ってのんびりしていると、次の日には和也自身がやってきた。

書類に何度も説明して、ここに判子とサインを求められた。

それも何枚も同じようにされられる羽目になった。

和也は生きがいを見つけたように輝いていた。

株式会社【猪野研究所】の誕生だ。以前までは有限会社だった。

株式は50対50で始まるようだった。

和也は開発の担当で副社長を務めると言っている。

俺も同じく専務だが、担当は今は無い。

親父さんは社長を務めるらしい。



俺と和也で村役場から冒険者ATMで、指定された口座に振り込んだ。

和也はその金額に驚きが隠せないで、「嘘だろう」と何度も言っていた。

俺の残高を見せたのは不味かったか?

しかし、このATMは眼球の虹彩認証こうさいにんしょうが必要で俺以外自由に扱えない。

今後も資金が必要だから、つぎ込める目安を見せたかった。

この研究開発がどう転ぶか眺めるしかないだろ。


それに俺の家には、隠し金庫も有り1億円がタンス預金している。


和也はバイクにまたがって帰って行った。

従魔らは、でかい家の方で命令された通りに大人しくしていた。

嫌違う、ウイスキーやウオッカを飲んで又、寝ていただけだった。

俺が和也と話し込んでいる最中に、シンクの流し台の下から盗んで飲んでしまった。


今後は【黒空間】へ収納するしかないみたいだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る