第20話移住者冒険者支援講座




今日は月曜日。

村役場で冒険者専用窓口に座りながら、田村のおばさんを待っている。


「待たせて悪いね。これが書類だ付箋の所に判子を押して、5枚有るからね」


「隣の家の件と山の件は、どうでしたか?」


「あれも、了承されたよ。今度の月曜日に同じ様に来てくれるかい」


「はい、来ますよ。冒険者カード決算で良かったですか?」


「ああ、それでいいそうだよ。それにしてもあの家を600万円で買っていいのかい?土地と家は大きいが見た目以上に中は壊れているよ」


「何とかしますよ」


「そうかい納得しているならいいよ。それから村の山と隣村の山も村長が話を付けてくれたよ。山なんか買ってどうするんだね」


「穴を掘って温泉でも当てようかと思ってます」


「あんたはバカだね、温泉なんか出ないよそれでも良いのかい」


「男の浪漫です」


「浪漫ね、女の私には分からないよ」


立ち上がり帰ろうと振り返ると、20代の夫婦と小学生だろうか女の子が、後ろに待っていた。


「岸さん待ってたよ」


田村のおばさんが、嬉しそうに話し掛けている。

新しい移住者の様で、男性に比べて女性の方が背が高い。


役場の出口に表示された住民数も、20人程増えている。

こんなに移住者が増えたのは、ここ最近で理由が分からない。


そして、今気付いたのだが案内版に『移住者冒険者支援講座2階201号室11時開始』を発見。

2階に上がり、201号室で山田勇やまだいさむさんが講義をしている。

入口でドアを開き覗く村役場の鈴木課長は、嬉しそうに講義を受けている人数を数えている。


「鈴木課長、これは何ですか?」


「君は知らなかったのか?冒険者の山田さんと村がコラボして第2回移住計画のキャンペーンを行なっている」


「だから住民が増えたのですか?」


「そうだよ、過疎化が進む村として生き残り作戦だよワハハハハ」


話を聞いて分かったのは、冒険者としてなんらかの事情で引退した人に呼びかけて、再度人生の2度目のチャレンジを呼び掛けていた。

それは山田さんの人生そのもので苦労話の連続でもあった。

少ないが家族で田畑を耕し、冒険者として生計を維持する。村役場も同じく支援をしてくれるらしい。


ボードには、1冒険者としての再チャレンジ、2農業の基本、3村の支援体制と書かれていた。


そんな時にスマホが鳴り出した。


「もしもし青柳です。どちら様ですか?」


「沙紀だけど、あんたの防具が届いているよ。急いで支部に来てくれない」


「分かった。今行くよ」


少しばかり早足で歩き、支部の中に入ると腕を組んだ沙紀が待構えている。


「あんたのお陰で、つまらない荷物受け取りに来る羽目になったよ」


「分かったよ。荷物を受取ってくれてありがとう」


「あんたも嫌味を言うんだ。これにサインと機械にカードを読ませて暗証番号を入力して」


俺が彼女にありがとうの言葉を掛けたのは初めてだった。

それが嫌味に聞こえたらしい。


彼女に言われるまま、サインとカードを読ませて番号を入力して決算ボタンを押す。

105万円が引き落とされ、残った残高が表示されて俺はニタリと笑う。


「あんた何笑っているの」


変な所を見られてしまった。


「村役場で君のお父さんを見たよ」


「仕方ないでしょう。村長に頭を下げられ頼まれたら断る事も出来ないでしょう」


「そうか、君のお父さんは偉いよ」


「・・・・・」


ダンボールを抱えながら、支部を出て家へ帰る。


ダンボールを開くと、新品の匂いがする。

今使っている防具と違って、傷も凹みも無い状態。

早速装備してみると、一部体にすれて違和感を感じる。

昔の事を思い出して、手で押しながら体に合う形に修正。

何度も着ては修正の繰り返しで、ようやく納得する状態の防具が出来上がった。


修正後の新品の防具に、俺は黒魔法の【黒空間】を発動して収納する。


地上では支援スキル以外、スキルは使えないハズだったが、うっかり間違えて【黒空間】を発動。

中級魔石を家で取り出してしまった。

【黒空間】以外を試したが、やはり発動はしなかった。

もしかして【黒空間】は支援スキルと同じ扱いなのかと考える。

それ以外で当てはまる理由が考えられない。


そして【黒空間】のスペースも5メートル四方に広がった。

使い込んで熟練度が上がった成果だと思う。


更に俺の黒魔法について、ギルドに内密にする必要が出てきた。

【黒空間】が地上で使えることは、悪事にも容易に使える事があると判断される恐れがある。

人を殺しても【黒空間】で収納して、ダンジョンに出し【黒球】で消滅させると完全犯罪が成立。

人は疑いだすと際限がない。

ギルドも恐いが、国から見れば俺の存在は更に恐い者に見えるだろう。


まだ検証はされていないが、外国のダンジョンに入り階段を記憶すれば、階段ワープで国の移動が可能かも知れない。

あくまでも、かも知れないの話だ。



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