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「あれ、なんだろう?」


 崩れた天井が気になり僕は思わず足を止めてしまった。

 天井が崩れているなんて、老朽化している建物ならよくある事だ。

 お金と時間をかけて作られた建物であれば何年経っても崩れるなんてことは無い。

 まぁ、遺跡となるくらいなら崩れてもおかしくないけど。


 このシーケント要害も年数的には遺跡と言われても可笑しくない年月が経っている。

 見学会の兵士からも散々言われているからそれは間違いない。

 でもね、崩れた天井は普通の煉瓦ブロックなんだ。


 え、煉瓦ブロックが落ちてくるのも可笑しいだろうって?

 いや、少し考えて欲しい。

 ここはシーケント要害。

 平和な世になったとはいえ、国のと国の境、国境を守る重要拠点だ。

 その重要拠点で、表面に出ていなくても天井が崩れてそのままにしておくのは問題があるだろう。もし、崩れたといっても修復作業をしていなければならないんじゃないか?


 と、まぁ、それは建前だ。

 本当に気になるのは崩れた天井のさらに上、二重になった天井だ。


 フラウを肩車すれば届いてしまう程の天井が崩れている。その上に倍ほどの高さにもう一つの天井が見える。だけど、薄暗く何で作られているのかはわからない。

 更に、崩れた天井はアーチ状をしているにも拘らず、隠された天井は真っ平。

 あの高さに平らな天井などありえない。

 いくら遺跡になるくらいの年月が経っているとは言え、不思議と思わざるを得ないのだ。


「痛っ!!」


 普段、何気なく使っている鑑定スキルでその天井を見てみたのだが、何時もと様子が違う。知らなければ知らないで不明だと頭の中に流れ込んでくる筈だった。

 だが、真っ平な天井はそうはならなかった。


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 管理権限を有していない為、検索不可能

 鑑定機能は一時的に機能を停止しました。再起動には600カウントかかります

 再度、同物体の鑑定を行う場合には管理者からの許可が必要です

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 頭の中を針で刺されたような頭痛と共にこんな鑑定結果が流れ込んできた。

 なんだ、これは。


 天井の検索が出てこないは何となくわかるが、こんな掲示は始めてだ。

 鑑定スキルを封じられたのもね。

 再起動って何だ?

 600カウントって?

 それに管理権限って何なんだ?


 僕は痛みよりもそっちの方が気になって仕方が無かった。


「あれ?消えた」

「どうしたの?」


 摩訶不思議な鑑定結果を脳内で眺めていたら突然消えてしまった。

 鑑定結果が僕の意思を待たずに消えるなんてありえない。

 もう一度出そうにもあの表示は二度と現れなかった、いや、鑑定すら機能しなかった。


 そんな僕の行動を気にしてか、フラウが僕の顔を不思議そうな表情を見せながら覗き込んできた。ちらっと見えただけ何だけど、彼女の表情は何時もと少し違って見えた……気がした。


「ちょっと不思議なことがあってね……。ここじゃ、時間がないから後で話すよ」

「何でもない……って言わない所が気になるわね。まぁ、話す気があったらでいいわよ」


 気にはなっているのだろうけど、それ以上僕に迫ることは無かった。

 今の僕には何の回答も持っていないから、少し時間を貰えるのは非常に有難かった。

 情報を整理する時間も必要だからね。


「ほら、崩れた天井が気になるだろうが行かないと遅れるぞ」

「あ、すいません」


 ほんの少し足を止めただけで他の見学客にも抜かれて列の最期になってしまった。

 しかも付き添いの兵士に促される始末。

 うん、ちょっとカッコ悪いかも?


 僕は止めた足を再び動かし、列に遅れまいと歩き始める。

 でも頭の中ではあの鑑定できない天井が気になって仕方がない。

 今すぐにでも図書館や冒険者ギルドで調べ物をしたい衝動にかられる。

 まぁ、それも今は我慢するしか無い。

 モヤモヤがくすぶっているけどこればかりは……。

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自分にだけ使える鑑定EXでこの世の真理を知った僕が神様に喧嘩を売るまで 遊爆民/Writer Smith @yu-bakumin

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