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「先手必勝!」
初撃は僕……じゃなく、フラウが弓から放った矢だった。
事前の打ち合わせ通り、後方に陣取る杖を持ったゴブリンに向けてだ。
ゴブリン兵士は剣や棍棒を持っているし、後方のリーダーは兵士よりも少し良い剣を持っているから、杖を持っているのがマジシャンだと言うのはすぐに分かった。リーダーか普通の兵士かはよく見ないと分からないけどね。
ただ、もう少し近付かなければ一射確殺とはならないだろうね。
ほら、離れているからかすりもしない。
あれはフラウの腕が悪いんじゃ無く、マジシャンが事前に取っていたポジションが良かったってのもあるだろう。あの場所は僕たちが丸見えだからね……。
って、僕たちからもゴブリンが丸見えだけど。
僕たちが陣取る場所の入り口、二重の円としか見えない魔法陣までゴブリンは数歩。
そこに来たら僕は駆け出してゴブリンに当たる。
あと、三、二、一歩!
今!
兵士のゴブリン、三匹が一斉に魔法陣を踏み、僕は飛び出して行こうとした。
だけど、目の前でゴブリンに起きた現象に一歩踏み出しただけで足を止める事になった。
いや、これは誰だってそう思うだろう。
見た事も聞いた事も無い現象が目の前で起こっているのだから。
「な、何が起きているんだ?」
魔法陣を踏んだ三匹のゴブリンが黒いモヤで覆われてしまった。
まるでゴブリンが暗闇に隠されてしまった、そんな様に見えた。
「フラウ、後の奴に牽制を続けて!」
「わ、わかった」
三匹のゴブリンを見ていたいのはわかる。
僕だって見ていたい。
何が起こるのか、想像がつかないから。
”ガシャン!”
”ガシャ!”
”ドカッ!”
ゴブリンを覆っていたモヤが晴れると同時にそれぞれが手にしていた武器を落した。
人の子供と同じほどの身長のゴブリンには似つかわしくない武器、をだ。
確かに、人の子供だったら振り続ける事は出来ないだろう。
軽々と扱うゴブリンは身体強化魔法を常時発動している。だから、重たい武器も軽々と扱える。
だけど、目の前のゴブリンたちは身体強化魔法を切ってしまい、重い武器を扱えなくなった。そんな気がしないでもない。
そうなると、何故武器を手放してしまったのかと疑問が脳裏に浮かぶ。
身体強化魔法はゴブリンたちを構成する重要な能力だろう。
それが使えない……。
「「あっ!」」
僕とヴィリディスは二人して声を上げた。
同時に思い出したのだ。
ゴブリンが身体強化を使っていなかった事例を。
「コーネリアス、あいつ等、身体強化を封じられたみたいだぞ」
「そうなるな。今がチャンスって事か!」
「考察は後だ。三匹まとめて始末するぞ」
「左の奴から殺る!ヴィリディスは右の奴からやってくれ。フラウは牽制を続けて」
「わかった」
「任せて!」
武器を落したゴブリンの内、一番左のゴブリンに向かって駆け出した。
それと同時にヴィリディスが生み出した魔法が飛翔して行く。
一足飛びでゴブリンに近づくと、白く輝く刀身で袈裟切りにする。
肩口から脇腹まで一直線。
当然、ゴブリンは何をするでもなく、そのまま命を散らした。
そして、もう一匹。
右端のゴブリンはヴィリディスが放った”火矢”が顔面で爆発、そして、炎上。
ゴロゴロと地面を転がって火を消そうと躍起になっている。
転がった先が何処へ向かったのかと思えば、真ん中のゴブリンだった。
武器を持てなくなり、呆然としている所にゴロゴロと転がった仲間が勢いよくぶつかって来た。当然、耐える事などできる筈も無く足を取られて”すってんころりん”と転び後頭部を地面にしこたまぶつけ、そのままピクリとも動かなくなった?
「さて、あと二匹だが……」
血に濡れた剣を”ビュッ”と一振り。刀身から鮮血を振り払うと再び切っ先をゴブリン、それもリーダーへと向けた。
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