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 乗合馬車でご老人と良い雰囲気で話していた時、馬車が急停止した。

 思わず座席から飛び出されるかと思ったくらいだ。

 何事が起きた?と、窓からひょいと顔を出して見ると、前方で行商の馬車が魔物に襲われていた。二台の荷馬車だったから行商と護衛が乗っていたんだろうな。

 護衛がいるから大丈夫だろうと思ったが多勢に無勢、多くの魔物に襲われていて劣勢だった。


 見てる前で護衛の冒険者の一人が魔物に引きずり倒され、生きたまま食われていた。あの女冒険者、仲間に見捨てられたんだな……。

 彼女もそうだけど、仲間も実力が足りなかったらしいな。可愛そうに。


 それでも、僕たちの乗合馬車も護衛の人がいるからと言って、むやみやたらと助けに行くことは出来ない。だって、この馬車を護衛出来なくなるからね。

 まぁ、僕たちが手を貸せば良いのかもしれないけど……。あくまでも乗客だからねぇ。


 そんな状況も魔物がこちらに気づいて向かって来て変わってしまった。

 乗合馬車の護衛がわらわらと魔物の行く手を塞いで一匹、また一匹と駆除していく。

 向かって来る魔物は問題ないな。


 僕たちの出番はないだろう、そう思っていたけど再び状況が変わる。

 真っ先に気づいたのはフラウ。

 ぐっすりと寝ているかと思ったら違った。

 寝ているふりをしていただけみたい。

 周りを気にしていたんだろうね。


「ねぇ、後ろから殺気を感じるんだけど?」


 そう言って目を覚ましたんだ。


 殺気と言っても人だけじゃない。

 人よりも魔物の方が素直な気持ちを前に出すから人よりも楽に察知できたみたい。


 僕たちはフラウの言葉を真に受けてサッと馬車から飛び降りた。

 フラウが視線を向けるのは後方の森の中。彼女と会ったときはここまで察知する能力は高くなかったと記憶している。

 でも今は魔物が出す殺気を察知できるんだから凄い成長具合だよな。


 僕がまだ魔物を見つける前にフラウは弓を番えてヒュンと矢を放った。

 矢の向う先。森から飛び出した魔狼にブスリと突き刺さった。

 距離があるから間違ってもヘッドショットにはならなかったけど、初手としては最高の結果となった。


 そこからは僕たちが魔狼を圧倒した。

 初手で一匹倒されたってのが一番響いたみたいだけどね。

 そのおかげで怪我も無く魔狼を追い返す事が出来た。

 魔狼が森に逃げ帰った後にはいくつかの死体が残っていただけだった。


 乗合馬車の護衛が僕たちが戦っているのに気が付いて近づいてきたときには全ての戦闘が終わっていた。

 行商の護衛は結構な被害を受けていたけど、何人かは生き残っていた。荷物もかなり散らかしていたからこっちも被害は大きいだろう。

 これからの商いに影響が残らなければ良いんだけどね。


 打ち倒した魔狼を森の中へと投げてから馬車に戻ると僕たちを見ていたご老人が声を掛けてきた。


「お主たち、素晴らしい腕前だったな。魔物の討伐、ご苦労であった」


 それ程でもないけどね。

 トロールに比べたら月とスッポンだよ。

 それにしてもご老人、流行りの物語みたいな口調だけど、それも書いてあったのかな?


 そのご老人、僕たちの戦い方が面白かったと喜んでいた。

 ヴィリディスの魔法の使い方も凄かったらしいけど、僕が使った目くらましの魔法も面白かったと言ってきた。

 成長限界が低いから苦肉の策として使ってるだけなんだよ。それを言っても納得してくれなさそうだから黙ってるけど……。


 そんな会話の最期、ご老人の言葉に僕たちは目を見開いて驚いた。

 それ程、衝撃的だったから。


「そう言えば聞いた話じゃが、海の向こうには面白い魔法を使う人々がいるそうじゃ。なんでも魔法で光を飛ばすそうじゃよ」


 光?

 火や水、石礫を飛ばすのは知っているけど、光を飛ばすって初めて聞いた。

 これは詳しく聞かなきゃいけない事案だ。

 僕はヴィリディスに視線を向けると彼は頷いていた。

 彼も僕と同じ事を思ったのだろう。

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