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「何か考えて、それを放棄するのも勝手だがな……」
ヴィリディスは僕の心の内を読んだかのように言う。
”人の心を読むなよ”、そう思うのだが表情に出ていた事を恥じるべきかもしれないな。
まぁ、顔に出てしまったのは仕方がない。誰も見てないと思ったらそうなったのだから……。
「教授には話すなよ」
「ん?教授に話しちゃいけないのか」
「そうだろう。話していないんだからな」
ん?話していない?
ヴィリディスは何を話していないのだ?
「なぁ、ヴィリディス。もしかして……」
「もしかしても、しなくても、オレたちが知っている事は話していないぞ。話したのは文様、文字の事だけ。ゴブリンがどうだ、とか魔法がどうだ、とかそこは話していない」
「そうなのか?」
ヴィリディスが話していないのなら僕も話すべきじゃないだろう。
恐らくだが、フラウにも口止めをしていると思われる。
尤も、フラウは興味が無いだろうから教授との会話は心配ないだろう。
「そうすると、さっきヴィリディスが言った解読した文章は、教授には何が何だか分からないって思っていいのか?」
「そう言う事だ」
教会が使う光属性魔法を知らなければそれ以上首を突っ込むことは無いだろうし、圧力が掛かることは無いだろう。
一安心だ……。
と、思ったのも束の間、それとは真逆の言葉がヴィリディスから発せられた。
「ただ、教授の事だから、知らぬ存ぜぬで済ませないだろうな」
教授の性格を良く知る彼だからこその意見だ。
黒き闇と白き光が何を示すのか、いずれは答えに行き着くだろう。
僕たちが知らない資料を山のように持っている筈だ。そこからたどり着くのは直ぐだと思う。
その時、教会から派遣された助手がどのように動くか、予断を許さない。教授を排除するか、取り込むか……。僕たちも教会が光属性魔法を使っている、と確信を得ている訳ではないから予想の範囲なんだけどね。
それでも、教会と言う巨大で不気味な組織を相手にするのだから、身の安全を確保するのは当然だな。いつかは教授に告げねばならないだろう。
「教授が答えにたどり着く前にそれとなく正解を教えるか?それとも、教会が危険だと教えるか?」
僕の問いにヴィリディスは即答すると思ったが、腕を組んで思考に入ってしまった。
その気持ちも何となくわかる。
相手は教会という巨大組織なのだからね。
僕だってわかっていたら最初から敵にはしなかったよ。
変に知識を持っていたから歯向かってしまい、父親には迷惑をかけた。
その時に教会が巨大組織で敵対してはいけないと知識を持っていて祝福の儀を受けていたらどうなっていただろう?結果を甘んじて受けて波風を立てないようにしただろうか?
今更過去に戻れないんだから考えても無駄か。
考えるのは止める事にしよう。
で、ヴィリディスはどのような答えを言い出すのだろうか?
それはそれで気になるな。
思考している彼に視線を向けると考えが纏まったのか顔を上げていた。
「……そうだな、教授にはオレたちが知り得た全てを話すとしよう」
「いいのか?」
僕たちが知り得た事を教会が知ったらどうなるか判らない。何度も何度も考えた事だ。
それを教授に背負わせようとするのだ。懸念がない訳は無い。
僕たちだけなら逃げる事もできるし、仮に殺されたとしても実家に迷惑が掛かることは無いだろう。
だけど、教授は違う。
教授以外に知られたら何処まで教会が手を広げて処理するか不明だ。
もしかしたら王国が滅亡してしまう可能性だってある。
だから……。
「事は大事だ。教授に話すとしても先に破滅の危険性を説いてからになるだろう……」
ヴィリディスの言葉に僕は首肯するしか出来なかった。
それからサラゴナの街へと戻りクリガーマン教授に教会の危険性と失われた魔法について告げようとしたのだが、その機会が無いまま季節は過ぎ去り、寒い冬から花が咲き誇る春へと移り変わったのだった。
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