-36- トロール狩り8

 三体のトロールを打ち倒した僕たちは教授が連れて来た兵士を先頭に遺跡へと入って行った。遺跡の入り口でトロールの出迎えが更にあるのかと身構えていたがそれは無かった様で少しばかり気を許していた。


「そう言えば、トロールをあのままにして来たが良かったのか?」


 僕はふと疑問に思った。

 ゴブリンや魔狼、魔猪など狩って少し経つと森の掃除屋たる小型の動物が寄ってきたり、またその上位の魔物が現れたりする。その為に、血抜きを行う時も穴を掘り血の匂いを撒き散らさない様に注意する。

 だが、今回は流れる血も息絶えたトロールもそのままにしてきてしまった。

 遺跡調査を行うのなら、後々とんでもない魔物が現れる可能性があると思うのだ。


「多分、大丈夫だ」

「そうなのか?」


 ヴィリディスは”魔”と付く物の研究をしていたバシルと知り合いだったのでその理由を知っていた。


「森の中ではトロールは上位の階級に属する。まぁ、ワイバーンとかが出てくれば別だが、トロールを狩る魔物は存在しないと思っていい」

「それが理由なのか?」


 僕の疑問にヴィリディスが答える。

 何となく理解はするが、完全に理解できたかは怪しい。

 ヴィリディスがさらに続ける。


「そうだ。トロールが幅を利かせていたこの辺りは、トロールに狩られる危険性があるから小さな魔物や動物は逃げ出している。残っているのは樹上にいるほんとに小さな小動物くらいだろう。だから、トロールをあのままにして置いても問題ない。それにトロールの匂いがすれば近寄る事すらないからな」


 つまり、トロールは森の中で最上位に位置する捕食者である。

 それ故に食べられたくない魔物はこぞって逃げ出すのだそうだ。

 ゴブリンや魔狼など、束になっても敵わないのだから、逃げ出すのもわかるだろう。

 それがあのままにしていても、しばらくは大丈夫だという理由なのだそうだ。


「なるほどね」


 ヴィリディスの説明が終わった所で僕は首肯するのだった。

 それと同時に僕たちは遺跡の中心部へと足を踏み入れた。


「ここからは遺跡の中心部だ。少し歩くと建物が見えてくるはずだ。そこにトロールがいると思われる。頼んだぞ」


 教授は一旦そこで足を止めて兵士や僕たちに注意喚起を行ってくれた。

 場所が場所だけに大声は出せないが、教授の気迫の籠った言葉に頷き返し、気を引き締める。


 兵士たちは槍を構え隊列を整える。三人を一列として。

 警戒態勢も取りながら何処から現れても対処できるような隊列だ。

 その後の教授と付き添いが続き、最後に僕たちが殿として後に続く。


 遺跡の中心部に入ったと言ったが、トロールのいると思われる建物までは更に歩く。しかも建物を囲うように塀がぐるりと取り囲んでいるのだから始末が悪い。多少崩れているとは言え、目の高さ以上を保っているので、内部を窺い知ることが出来ないので慎重にならざるを得ない。


 誰かの喉がゴクリと鳴った。

 すぐそこの角からトロールが現れるかもしれない。

 そう思うと恐怖に負けて今にも逃げ出したくなるだろう。

 残りのトロールは少ない。

 全員が一度にやられる事は無いだろう。それだけが唯一の救いなのかもしれない。


 先頭の兵士が塀に差し掛かる。

 口を開けた門を潜ればトロールが住まう建物が見えて来るだろう。

 一歩一歩慎重に足を進める……。


「あっ!」


 その時、誰かが叫んだ。

 いや、叫ばざるを得なかった。

 先頭の兵士が門を潜った直後、吹き飛ばされたのだから。

 しかも並んでいた三人全てがだ。


 いったい何が起こったのか?

 一瞬の出来事に誰もが我が目を疑った。

 だが、それで答えが出る筈もない。

 それでもわかった事がある。トロールが僕たちを待ち受けていたと言う事実が、である。


「待ち伏せか?巫山戯やがって」


 吹き飛んで行った兵士は諦めるしかないだろう。

 それほどに知恵の回るトロールに僕たちは怒りを露にすると同時に恐怖も感じていた。

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