-18-

「ここに何かあるかもしれない。探してくれ」


 ヴィリディスが言うには床から天井まである書棚の中に、彼が預けた資料、もしくは、それの調査結果があるかもしれないと言うのだ。それがどんな形で残っているのか、それすらわからない。もしかしたら無い可能性すらあると言うのだ。


 背表紙に題名が書いてあれば何らかの資料だと判るのだが、半分以上は題名が無い。

 そんな中を探すのは非常に手間がかかる。


 そこで、僕の能力、鑑定を使って探そうと試みるのだが……。


------------------------------

 名称:書物

 価格:たぶん、価値があるんじゃないか?

 説明:誰かが書いた書物。印刷なのでそこまで高くは無いが手に入れるのには苦労したようだ。

------------------------------


 これである。

 確かに、僕の人生で書物なんて大量に開いたことは無いよ。

 でもね、鑑定さん。

 これってどうなの?

 使えねぇなぁってなるのわかるよ、ホントに。


 そんな訳で、僕は一冊一冊書棚から取り出し開いてみるのだが……。


「う~ん、何を書いてあるのか、さっぱりわからん……」


 何が書いてあるのかは判るんだよ。読めるし、意味も分かる。

 何が言いたいかだが、一ページの中で答えが書いてあるのは最期の一、二行。その前がずらずらと説明が書いてある。その説明が回りくどくて判り辛い。

 つまりは簡潔に書いてないんだ。

 研究者はそのすべてを記さないと気が済まないのはわかる。

 でもね、余りにも酷いよ……。


 僕は一冊開くたびに溜息を付きながら書物を閉じるのだった。




 それからしばらく、三人で書棚を虱潰しにするのだが、目に留まるような書物には出会えなかった。

 だが、それもフラウの言動により終わりを向かえる事になった。


「これ、何でしょう?」


 端から順番に一冊一冊手に取っていたが、書物と書物の間に位置する仕切りにフラウは注目した。

 彼女曰く、仕切りと言うよりも何かのスイッチかも?と言うのだ。

 僕もヴィリディスもそれには気が付かなかった。


 魔道具の明かりはランタンに比べて強烈だ。

 あくまでもランタンに比べて、だ。

 空にさんさんと輝く日の光と比べる事は出来ないが。

 その魔道具の明かりで照らしている今でさえも僕には見分けがつかなかった。


「引いてみるか?」

「あぁっと。チョットマッテクダサ~イ」


 ヴィリディスがその仕掛けを引っ張ってみようかと手を伸ばしたところをフラウが静止させた。しかも、ちょっとばかりイントネーションがおかしい?

 それはともかくとして、フラウには何か引っかかったようだ。


「どうも引っかかるのよね~。罠がありそうって」


 そんなところじゃないかと思ってた。

 嘘じゃないよ。ホントに思ったんだよ。


「そう言えばそうだな。アイツの事だ、用心深いのは当然か」


 フラウの言葉に納得のヴィリディス。

 この部屋の持ち主、バシルの性格を思い出したらしい。

 用心深いのは判る。

 ヴィリディスが首から下げているカードが無いと入り口すら開けられないのだから。


 それを踏まえると、うっかり罠を発動させてしまうと僕たちの命が危ない、のだろう。

 ここに来るまでも命の危険があり、うっかりと何かをいじってしまっても命の危険に晒される。

 うん、慎重に行動しよう。


 と言う訳で、罠の解除はフラウに任せて僕は書物の調査を続行しようと思う。

 彼女に任せっきりってのもどうかと思うけど、僕にはできないのだから仕方がない。


 さぁ、調査再開、そう思って書物を引っ張り出そうとすると、何処かでかちゃりと何かが解除される音が響いたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る