新ロミオとジュリエット
がんざき りゅう
新ロミオとジュリエット
私はジュリエット。
駆けつけてくれたロミオ様は、横たわる私の姿をみみつけるとこの世の終わりのごとく嘆いた。
「ああ、なんてことだ! 僕だけが生きていてもしょうがない」
横たわる私のそばにひざまずいた。
そして、こともあろうかロミオ様は持っていた毒を自らあおって、「うっ~」とかうめきながらパタリと倒れてしまった。
しかし、私は死んではいなかった。
両親によって決められたパチス伯との結婚から逃れるために仮死状態になる薬を自ら飲んで眠っていただけだったのだ。
しばらくして目覚めた私は、毒ビンを手に口から血を吐いて息絶えたロミオ様が横たわっているのを目にした。
「ああ、なんてことでしょう。ロミオ様がいないこの世界で生きていくなんて考えられません。私もロミオ様の後を・・・」
私はロミオ様が帯刀していた剣を手にするとためらうこともなく自らの胸を刺した。あふれ出る血、遠くなっていく意識。
「ロミオ様、ロミオ様、今おそばに・・・あれ? なんか変だ」
一旦暗くなった視界が再び光が戻ってくる。
私はゆっくりと目を開ける。
目の前には横たわる私の体。
手を見た。見たことのある手だが、私の手ではない。下を見た。地面が見えた。
「育ち盛りの胸が無い? はっ、この服は男の服、あー、この服はロミオ様が着ていた服だ」
腰周りに手をやった。剣があった。ポケットには小瓶が入っていた。さっき私が自分を刺した剣とロミオ様が飲んだ毒ビンに違いなかった。
私はすべてを悟った。
「あー、これ今流行りの転生ってやつね。よりによって、ロミオ様に転生してしまったようだけど」
私は目を閉じて大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。もう一度、吸って、吐いた。
すこし、落ち着いた。
目の前に横たわる私がいる。ロミオ様はまだ死んでいない。ということは、私が仮死状態でいるところにロミオ様が駆けつけたところね。
「せこい転生ね」
転生させた主が聞いているかどうかわからないが、素直な気持ちを口にした。
ポケットから小瓶を取り出した。
「さて、どうしたものか。このまま、ロミオ様として毒を口にすべきか。それとも、しばらくして目覚める私を待つべきなのか。そもそも、ロミオ様の体で私はジュリエットだといったところで目覚めた私は信じてくれるのだろうか。いやあ、私は嫉妬深いからな、きっと別れる口実ででまかせをいっているのだと決めつけるだろうなあ」
私は静かに眠る嫉妬深いジュリエットを呪った。
「そもそも、同じ人格が二つ同時に存在することを神様は許してくれるのかな。とりあえずロミオ様のフリをしていたほうがいいのかなあ。そんなことより、ロミオ様のいない世界で生きていくのは絶望的につらいなあ」
なんてことをぶつぶついっているとジュリエットがもぞもぞと動きだした。
私は仕方なくジュリエットの体を抱えてぎこちない笑顔をつくる。後のことは後で考えよう。
「うーん」
仮死状態だったジュリエットが目を開けた。
「あれ、僕はさっき毒を飲んだはずなのに・・・助かったのか、あっ!ってなんで僕が目の前にいるんだ」
私は予想外の言葉に驚き、目覚めたジュリエットは状況が理解できないまま、お互いに見つめ合った。そして、そのまま固まって動かない。
ジュリエットは突然自分の両腕を胸にやり、二つの膨らみをわしづかみにした。
「ああ、ロミオ、どうして僕はジュリエットなの」
その一言で私はすべてを理解した。
「まあ、ロミオ様はジュリエットに転生したのね」
新ロミオとジュリエット がんざき りゅう @ganzaki-ryu
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