怪異、伝奇。
どこか硬いイメージも感じさせてしまうテーマではありますが、本作の目玉はなによりキャラクターの豊かさにあるのではないか、と思っています。
すずめ先生としてはめずらしい(?)高校生主人公、朔少年のなかなか見えてこない過去。大人なのに茶目っ気たっぷりの樹神先生、妖しい雰囲気の百花姐さん。
舞い込む事件に感じさせる、切なくもどこか共感できてしまうエピソード。暖かさと切なさがとても程よいバランスで、最後までストレスなく読まされてしまいました。
読み終わってすぐに思ったのは「少なくとも五巻くらいまではあるはず……読まねば!」という気持ちにさせられました。なにが言いたいかというとこの作品がここで終わっていいはずがない、そんな気持ちです笑
また物語の面白さとは別に、元となっている地域や食べ物、都市伝説について詳しく編み込まれていて驚きました。自分は名古屋に降り立ったことはありませんが、この地域自体への興味もわかせてしまう作品でした。
あと地味に飯テロです、その点だけご注意を!(笑
『歌は呪文みたいなものだよ。例え発信者が意味を知らずとも、受信者が聴き取った形で効力を発揮する――』
作中のこの台詞こそが、物語の中核にあるのではと思いました。
幼い頃に何となく刷り込まれていた、耳馴染みのある童謡・遊び歌が、その俗説を辿っていくにしたがって、だんだんと不穏な旋律に聞こえてきます。
懐かしく、親しみのあるメロディーを聴いていたら、知らぬ間に不協和音が入り混じってきて、名古屋飯コメディドラマが心霊ホラーへと転調されていくゾクゾク感には、もはや快感すら覚えました。
依頼人だけでなく、登場する怪異にも、それぞれ人間味のあるドラマが内包されていて、依頼人との共鳴の中で、その悲鳴や慟哭が、胸の深いところまでズゥンと響いてきます。
なんでこんなにも自分が苦しんでいるのか分からない。でも、本当の原因を知ってしまったら、もっと辛い想いに蝕まれてしまう気もする。知ってしまいたい、でも知りたくない。もう悩みたくない、忘れよう。
この『共感応トワイライト 〜なごや幻影奇想ファイル〜』には、人間関係へのやり切れなさと、家族でも友人でもない「隣人」による救済が描かれています。
人は、人によって傷付けられるのに、人によってその傷を癒やされることもある。
単純な人間讃歌ではありません。悪に犯され、善意に押し潰され、どこにも吐き出せない憎しみに苛まれることもある。
でも、人生の道半ばで背負ってしまった重石を、信頼のおける「隣人」と抱え合うことが出来れば、あなたはもっと楽に生きられるはず。
主人公の服部 朔は、忸怩たる想いを抱えた彼ら怪異たちの、深層に秘められた無念の声を聴くことで、彼らを成仏させていきます。
でもその救いにしたって、師匠である樹神 皓志郎や、異能の先輩である百花さんの協力があってこそ成し得たことなんですよね。誰かによって助けられた者が、今度は誰かを助けていく。人に傷付けられてもなお、怪異にならないようにするためには、人の助けが必要です。
どうか、あなたの想いも成仏しますように。
陽澄すずめ先生による、温かい祈りの唄が聞こえてきて、気が付けば泣いているような小説でした。
黄昏時の高架下、寂れてしまった商店街、いつも人気のない公園。あなたの街にも、どこか背がぞくりとするような場所はありませんか?実はその感覚、当たっています。このような場所には怪異が住み、常に私たちを“あちら”へ招こうとじっと目を光らせている――。
この物語はそんな怪異たちが起こす事件が持ち込まれる、少し変わった探偵事務所のお話です。
依頼人が女性だと知ると喜ぶキザな優男が探偵、樹神皓志郎。個性ばっちりな彼が華麗に難事件を解決するのかと思いきや、主人公は彼の助手で高校生の、服部朔くんです。
怪異が視え、さらに常人にはない力を持つおかげで家庭に居場所を失った服部君は、賢いけれど周りに壁を作ってしまいがち。先生の助手として事件に同行するも、あと一歩の活躍ができずに落ち込むこともしばしば。けれど事件をきっかけにさまざまな依頼人との触れ合ううちに、彼はたくさんのものを見つけ、時には失って、小さく小さく前に進んでいきます。
怪異が絡む事件も、その原因となる怪異との対決も、実はびびりの私には結構怖かった!(笑)でも大丈夫、どのお話にも納得できる結末が用意されています。章ごとに事件は見事な解決を迎えるのですが、ミステリらしくその中にもたくさんの仕掛けが。すべてのピースが集まる最終章の盛り上がりは必見です!そしてハンカチのご用意をお忘れなく……!
立ち止まりがちな服部君の背を押してくれるのは頼りになる先生、そして訳あり着物美人の百花さん。それぞれの特技を活かして怪異に立ち向かう二人の華麗なアクションも素敵です。
さらに名古屋の魅力も満載!三人が揃うと名古屋弁での会話が華やかでなんだかかわいい!(笑)そしてあらゆるシーンで読者の胃を悩ませる名古屋メシ&スイーツの猛攻。ああ、今すぐ名古屋に行きたい‼︎いや絶対行く‼︎‼︎
まだまだいくらでもご紹介したいところがたくさんですが、もうあとはご自身の目で確かめてください。☆の数が語るように、本当に魅力がいっぱいの作品!続編もあるのでキャラクターたちを長く愛していけそうです。
ふしぎな事件の裏側にあるのは、いつも誰かの寂しい心。そんな迷子になった心をすっと掬って優しく抱きしめてくれる、最高のヒューマンドラマです。
――読んでないなんて正直、勿体無いですよ?