第29話 追加の椅子
珍しく谷藤と一緒になった理由は、すぐに判明した。熊澤が有休消化で2時間早く上がるとのことで、その補充人員として私が変則的に招集されたのだった。熊澤が帰り際、「久しぶりだし、行く?」と酒を飲むポーズで誘ってくれた。「早く帰るのに?」と尋ねると、駅前の美容室に行くから問題ないとの旨だった。久しぶりに彼女と飲めるのが単純に嬉しかったので、良いですよ、と返事をすると、他のメンバーに、
「今日、イッシーと飲みに行くけどどう?」
と聞いて回ってしまった。
迂闊だった。熊澤は面倒見の良い幹事タイプだったのを失念していた。
谷藤の反応を確認する。犬の世話があるからいつも通り欠席だろうとタカを括っていたが、
「旦那に聞いてみる。」
と、まさかの返答が聞こえた。
え?単身赴任では?帰って来てるの?そんな疑問が湧いて出て来たが、お客様からの問い合わせを受けたため、続きを聞くことが出来なかった。
早上がりの谷藤が帰り際、「それじゃ、後でね。」と囁いて行ったので、参加であろうことを察した。楽しみだった気持ちが一気に急降下した。
その後、岡、斉藤、私でラストまでの通しとなった。幾度も斉藤と話す機会を窺ったが、運が私に味方をすることはなかった。あぁ、私ばっかり会いたくて、苦しくて、会えて嬉しくて浮かれてたんだなと、視界がグルグル回った。それでもどうにか終わりまで持ち堪え、締め作業を行う社員2名に挨拶をし、熊澤から指定された場所に向かった。
駅前の和風居酒屋に着くと、熊澤がテーブル席で待っていた。テーブルには、コースター・おしぼり・箸が4組セットされている。席に座ると、先に飲んでて良いって、とドリンクメニューが手渡された。誰かと連絡を取っているのだろう、おそらく岡と谷藤だろうと思われた。今日の斉藤の様子でここに来ることはないだろう。
熊澤は生ビールを、私は今日は失態を犯したくない、と無難にピーチウーロンを頼んだ。2人で乾杯をし、熊澤が懇意にしているアイドルグループの布教を受けていると、谷藤が登場した。彼女は、私の隣に座る。上座を空けたのだろう。いつも通りの赤ワインを待っていると、岡が「やぁやぁ。」と右手を上げながら入ってきた。
岡の後ろに、斉藤がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます