第59話 素晴らしき一日
俺はヴィム=シュトラウス!
何を隠そう、俺はあの最高のパーティー【
責任重大だけど、みんなの期待を背負うのは誇らしい!
今日は休養日、もとい訓練日だ。
準備というのは本番よりもあるいは重要だと思って臨まなきゃいけない。
特に俺は頑張らなきゃいけない立場だしね!
まずは朝、夜明けと共に中庭に出る。
心地よい肌寒さだ。
「──」
うーん、でも、少し耳鳴りと頭痛がするな。
入団して結構時間が経って、季節も変わり目だ。踏ん張らないと。
「カミラさん! おはようございます!」
カミラさんは一心不乱に巨大な錘を振っている。
さすがだ。フィールブロン最強の戦士の一人と言われているにも関わらず慢心がない。この姿勢が人を惹き付けるのだろう。
見習わなければ、と強く思う。
自慢になるが、俺だってここ最近は最強だのなんだの言ってもらえている身だ。
どう見られているかをしっかり考えて、良い意味でのプライド、誇りを持たねばならない。
「すまないな、毎度朝飯前に呼び出して」
「いえいえ! 団員として当然です!」
【
たとえば団長の要請であっても、このように早朝に呼び出しがあった場合にはしっかり早めに出勤したことになって、その分の給金が支払われる。
「よし、では、頼む。術師ヴィムの付与を承認する」
「はい……、
俺も自身に
体格から来る凄い重圧。
正面から組み合っては体格差と質量差であっという間に組み伏せられる。
だから俺の前提はカウンターだ。間合いに入るのは殴るためではなく腕を取るため。
カミラさんが俺を掴もうと差し出した手をいなして、投げるべく添えようとする。
が、今まで決まっていたこの方法が通じなかった。
バチっと手の甲から弾かれて、こちらが逆手に掴まれそうになる。慌てて距離を取る。
「むぅ、今日こそはやれると思ったのだがな」
「……負けませんよ!」
手と手、腕と腕が掠り合う攻防。
そしてなんとか、隙をついて投げ切った。
ちょっと罪悪感。
でもこんなことで怒る人じゃない。
そういう信頼関係あっての組手だ。カミラさんは元気よく跳ね起きて、笑顔で構えなおした。
「よし、では次は生身だ!」
今度は
俺は今までも日常的に行っていたが、こうやって
朝の鍛錬が終わると今度は朝食。
【
「おはようございます!」
元気よく挨拶する。
そしてテーブルを見回して、ちょうど人数が足りなそうな場所に行く。
「ここ、いいですか?」
「ああ、ヴィム君。いいよいいよ、一緒に食べよう」
この人たちは、えっと、エッケハルトさんとローレンツさんだ。
後衛部隊の後方なのであまり話すことがないんだけど、よしよし、ちゃんと覚えている。昨晩の成果が出ているぞ。
「──નીચ」
こうやっていろんな人と交流を取ることは大切だ。
特に俺はこのパーティーで素晴らしい評価と給金をいただいている身だし、ぶっきらぼうにしているといらぬ軋轢を生むこともある。
それに人とちゃんと話すのは楽しい!
人と関われるのは人間の至上の喜びの一つなのさ!
*
昼にも訓練と、あとは一部書類仕事なんかがある。
【
実は俺はこういう実務能力に長けていたみたいで、結構頼りにされたりもするんだ!
それが終わればお楽しみ、みんなとの夜ご飯だ。
朝が早い分あまり遅くまで訓練していても仕方がないので、みんな早めに切り上げて、日が沈まぬうちに街に繰り出すことが多い。
なかなかの人数だし結構目立つ。
意外なことに黄色い声が聞こえてきたり、自意識過剰じゃなければ俺の方に向いていたりもする。
でもちょっと頭痛に響くから、今は高い声はやめてほしいな。
俺の定位置みたいな席もできた。
基本的に店の奥の方で、これはどうやら俺を結構偉い位置に置いてくれている配慮らしい。
むず痒いけど、せっかくの気遣いだ。
断るんじゃなくて、応えなきゃね!
でも新入りだし年下だから、さすがに
「ヴィム君、毎朝団長のお相手ご苦労だねぇ!」
「いえいえ、勉強させてもらってます」
「団長もすっかり頼りにしててよー! もうヴィム君がいないときでもヴィム少年はヴィム少年は、って口癖みたいになってるぜ?」
「いやぁ。カミラさんにはいつでも馳せ参じますとお伝えください……ふふふっ」
おっと。
笑い方気持ち悪かったかな?自然に笑ってたと思うんだけど。
でもみんな特に変な反応はしてないな。安心。
「──જનક」
おや、斜め前で何やら三人くらいがメニューとにらめっこしている。
「どうしたんです? マルクさん」
「ん? ああ、これこれ。頼もうと思ったんだけど、食えるかなって」
出されたメニューに書いてあったのは「激辛
名物らしいけど、唐辛子があまりに効きすぎていて食べきれないことが多々あるらしい。
「はい! 僕、それ食べたいです!」
「お? 行くか?大丈夫か?」
「最近辛いのに挑戦してるんですよ!この前も激辛ソースに挑戦したんですけど割と平気でした」
「おー、よし、じゃあ頼むぞ。一口分けてくれ」
「どんとこいです!」
運ばれてきたお皿は真っ赤なソースで染まっていた。
テーブルは一瞬引いて、おいおいやらかしたよ、という空気を経てちょっと緊張が走った。
俺も失敗したかなと頭に過る。でも注文したのは俺だ。引き返せない。
「はい! では、ヴィム=シュトラウス、行きまーす!」
赤々しい肉巻きにフォークを刺して、一気に齧りつく。
おおー! っと歓声と拍手が上がる。
こういうのは丸呑みしちゃいけない。
しっかり噛んで辛さを堪能するのだ。
「……美味しい」
ところが、いざ食べてみると辛いにしてもそこまで辛くない。
それどころかとても美味しい。
辛さに耐えた者だけが享受できる美味しさを、辛さを感じずに味わえるようなそんな感じ。
ちょっと変に目立とうとしてしまった節は否めないけれど、この料理はアタリだ。
「本当か。じゃあ俺も……」
「どうぞどうぞ」
物欲しそうにするマルクさんに皿を差し出す。
そして俺と同じようにパクッと一口。
「……ッ! 辛え! 無理だこんなの!」
笑いが起こった。
良かった。変な緊張はもうなくなった。
「おー、ヴィム君はいけるクチなのか」
ハンスさんが楽しそうに言う。
「いえ、案外才能というか、辛いの得意かもしれないです」
「はっはっは! 言うようになったねぇ! ヴィム君!」
そこから先も楽しい時間だった。
お話して、若い衆がちょっと無茶なことをしてみせて、拍手したりする。
一番大きな拍手が上がったのはハンスさんが「今日は俺の奢りだ!」と言ったときだった。
そしてここも【
明日に備えて解散が早いのだ。
夜のフィールブロンをみんなと話しながら歩いていく。
いろんな人が見ている。
手を振ってきてくれたりするのでときどき振り返したりして応えてみたりする。
お、小さな男の子が喜んでくれた。
どうなんだろう、そんなに派手な見た目じゃなくても冒険者ってだけで格好良く見えるものだし、こうやって凄い人たちの真ん中にいれば憧れにも映ったりするんだろうか。
もしそうなら嬉しいかも。
「મૂર્ખ જેવું લાગે છે」
うるさいなぁ! ここは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます