3. 後悔

 全てが変わったのは、五年弱付き合った翔と別れた一週間後でした。

――同級生と連絡が着きません

――友達の弟が行方不明です

――同級生が行方不明で親が警察に捜索願を出しています

――この車見た人連絡ください

――誰か悠斗と連絡着く人いませんか

明けたはずの梅雨が戻ってきたかのようなゲリラ豪雨の日の夜、外の雨と同じようにSNSのタイムラインの投稿もものすごい勢いで流れてきました。


 私は流れてきた投稿を拡散し、非公開のあなたのInstagramのアカウントにフォローリクエストを送りました。生きてさえいればきっとあなたはリクエストを承認してくれる、それがあなたが生きているという合図になる、そう思っての行動でした。私の期待とは裏腹に承認されないフォローリクエスト、外を見ずとも音で伝わるほどの豪雨、そして鳴り響く雷鳴……数時間前に見たあなたのアカウントのアイコンのあなたは満面の笑みで魚を掴んでいました。もしこの状況で川や海に行っていればきっと助からない、そう思うとさらなる不安が押し寄せました。


 あなたに関する情報で私が知っているもの全てを懸命に思い出そうとし、糸口を探そうとしました。そんなときふと思い出した翔の言葉に私は不安を煽られました。

 ――高校に入学したあと、何があったかはよく分からないけど、悠斗学校に行かなくなっちゃったみたいでさ……退学とかしたわけじゃないみたいなんだけど、行けなくなったのかな、あんまり詳しいことは俺もわかんないけど……


 フォローリクエストが承認されることは、今までも、そしてこれからも……


 あなたは何かをひとりで抱え込んでいたのでしょうか。それに耐えきれずに「今日なら逝ける」とばかりに命を絶ったのでしょうか。それとも予期せぬ大雨に抗えず事故で亡くなったのでしょうか。どちらにしても何か手を差し伸べることのできなかった私の不甲斐なさに苛立ちを覚えます。


 そういえばSNSであなたが行方不明だと知った日の朝、普段絶対に閉めて寝るはずの私の部屋のドアが開いていました。家族に聞いても誰一人としてドアを開けた人はいませんでした。あの時点では私はあなたが行方不明だなんて知る由もありませんでしたが、今となってはあなたが会いに来てくれたかのような気がします。あなたが会いに来てくれたと思えば、やるせなさから来るこの十字架のような自責の念が、ほんの少しだけ、軽くなるのです。


 それから数日して、あなたと私の通った小学校ではある噂が流布し始めました。

 ――卒業生が自殺した

 あなたを幽霊かのように扱い怖がる小学生も中にはいたようです。あなたのことなんて何も知らない後輩たちが、根も葉もないようなことまで噂し始めたのがただただ悔しかったです。あなたの死がどのような理由であろうと、私が祈れるのはただ一つ、三途の川の向こうでもあなたが私の知っている頃のように明るく輝くムードメーカーでいられるように、ただそれだけです。


 二十歳という歳での突然すぎて若すぎる死。もう一度くらい会って話してみたかったです。私だけでなく、たくさんの友達が懸命にあなたを探しました。事故であるのならあなたが事故に巻き込まれたことが悔しいし、自ら命を絶ったのなら手を差しのべることすらできなかったのが悔しいです。


 それはきっと、思いを寄せられているような気がしたことがあったからでも、私があなたを好きになりかけたからでもなく、燦々と輝いていてひとりの友達として尊敬できる存在がこの世からいなくなってしまったことへの寂しさのせいだと思います。


 来世があるのなら長生きしてください。あなたが小学校の卒業アルバムに書いた夢「お父さんになる」を叶えてください。


 たくさんの楽しい思い出をありがとう。


 星となったあなたに届いているかは分かりませんが、みんなあなたのことが大好きでした。まだ間に合うのなら今からでも自分に誇りを持ってください。フォローリクエスト、いつか承認されて、魚と子どもたちに囲まれて笑顔のあなたの投稿が見られますように……


 今も私の心の中で、あなたは生き続けています。他の人の心の中でも生き続けていることでしょう。またいつかどこかで会いましょう……


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