2. 背景
悠斗へ
この手紙はあなたに届いていますか。私がこのようなことを書けるご身分なのかは分かりませんが、どうか最後まで読んでほしいです。
あなたのことをよく知ったのは初めて同じクラスになった小学六年生のときでした。いわゆるクラスの中心人物で、いつも場を盛り上げてくれるエンターテイナーのような存在でした。足も速くない、特別顔がかっこいいわけでもない、でも持ち前の明るさのおかげであなたはいつも輝いていました。夏場あなたが週に一回は着ていた星の絵が二つある服。その星よりもあなたは輝いていて、眩しい存在でした。
中学生になってからは一度も同じクラスにならず、ほぼ関わりのないように思っていました。吹奏楽部だった私はいつも部活前の音楽室からグラウンドを見渡していました。そこには私たち吹奏楽部よりもいち早く部活を始める熱心なサッカー部員たちがいました。アップをして、シュート練習をして、顧問の先生が来れば四階の音楽室まで届くような大きな声で挨拶をする……そんなサッカー部に黄色い歓声を浴びせながら、好きな人がゴールを決めたら「○○くんかっこいい!」と叫ぶ、それは私たち吹奏楽部にとって日課であり至福のひとときでした。私がいつも目で追うのは同じクラスの凛太郎くんでした。あなたも知っているように彼は足が速くて、顔もかっこよくて、男女分け隔てなく優しくて人望のある人でした。
この日課をやめることのないまま、三年生になっていました。あなたのサッカーしている姿を目で追うことはないまま、私は部活を引退しました。その後、あなたも私も生徒会に入りましたよね。私は執行部、あなたは文化委員長でした。執行部として各委員長に活動の意気込みをインタビューしに行くことがありました。休み時間に渡り廊下で友達と戯れているあなたのところへ行くと、あなたの友達は
「悠斗、良かったなぁ!優萌さん来たぞ!渡り廊下に来るとか告られるんじゃね?」
とあなたを囃し立てました。あなたの文化委員長の相方で私の吹奏楽部での友達の亜希が
「各委員長で文化祭の打ち上げしたいと思ってて、私文化委員長だし幹事しようと思うのね。でも男子集めるの大変だからそれだけ悠斗くんにお願いしたいと思ってるの。優萌、悠斗くんに伝えといてくれない?私給食当番で忙しいから悠斗くんのクラスに行く時間なくて……」
と私に頼むので伝言しに行くと、あなたの友達は
「優萌さん来ないの?」
と私に尋ねてきました。大人数の集まりは苦手な上、ただでさえ吹奏楽の全国大会までの練習で受験勉強が全くと言っていいほどできていなかった私は塾があるから集まりには参加できそうにないと言いました。すると
「あーあ、悠斗、残念だったなぁ!優萌さん来れないって!」
とあなたの友達はあなたをからかいました。
その二件から、私はあなたからの気持ちに薄々気付くようになっていました。
ところで、梨花を覚えていますか。あなたと中学三年生のクラスが同じだったあの梨花です。梨花は私の吹奏楽仲間であり、家も近所で、いつも一緒に帰る仲でした。梨花からはたくさんのことを聞きました。なぜか梨花はあなたに嫌われているような気がしていること、そのせいで梨花はあなたを怖がっていること、梨花のクラスに私のことを好きだと言っている男の子が二人いるものの怖いからその名前を私に言うことはできないこと……
そんな梨花を階段を降りたところの靴箱の前で待っていた私にあなたはいつも声をかけてくれましたよね。
「今日帰りひとりなん?」
って。帰りの会が終わるとすぐに帰るあなたと隣のクラスの彼氏と少し話してから帰る梨花。あなたがいつも話しかけてくれるおかげで梨花が来るまでの五分間も楽しく待つことができました。
勘違いなら恥ずかしいけれど、私のことを好きなのだろうと思っていました。凛太郎くんのことが好きだった私ですが、いつしか彼よりもあなたのことが気になるようになっていました。明るくて面白いあなたと付き合うことができていたら、私の中学生活はもっともっと輝いていたでしょう。楽しくて思い出深いものになったでしょう。なぜここまでアピールしてくれるのに告白だけはしてくれなかったのですか。あなたも私のように自分から告白するなんて到底できない恥ずかしがり屋だったのでしょうか。あなたにとって私は告白するまでもない存在だったからでしょうか。私が凛太郎くんのことを好きだということが有名だったからでしょうか……
結局私達の関係に進展はないまま、あなたは地元の、私は街中の高校に進学しましたよね。LINEの友だちの自動追加をオンにしていたら、気付いたときにはあなたから友だち追加されていました。ですが当時の私は親から同じ高校で今も関わりのある特に仲の良い友達以外とはLINEをしてはいけないと言われていて、あなたのことをブロックしなければなりませんでした。これはきっと、高校の入学式を三日後に控えた日のことだったと思います。四月の桜のように私の淡い恋心も散っていきました。
高校二年生の夏、私はあなたの幼なじみの翔と付き合い始めました。翔からはたくさんあなたのことを聞きました。翔はバスケ部だったのにあなたと遊ぶためにサッカーのキーパー用のグローブを買ったこと、毎日のようにあなたとサッカーをして遊んだこと、お兄ちゃんがいて周りの子より少し先にオトナになったあなたからオトナなサイトを教えてもらったこと……あなたとの思い出を振り返る翔の顔は満面の笑みそのものでした。そんな翔に中学生の頃のあなたとの思い出を話したことがありました。
「そっか、悠斗も優萌のこと好きだったんかな。でもいいよ。優萌と今付き合えてるのは俺だから。いつか聞いてみたいね、あのとき悠斗は優萌のことどう思ってたか」
と翔は柄にもなく意地悪そうな顔で言いました。
あなたとは違う男の子と付き合っても、毎日ではないけれどどうしてもあなたのことを思い出してしまっていました。あのときちゃんとあなたと向き合っていたのなら……と思うと私には未練があったのでしょう。凛太郎くんに告白できなかったことへの後悔はないのに、あなたとお互い気持ちを確かめあうことができなかったことはずっと後悔し続けてしまうのです。たとえ私のことを愛してくれる彼氏がいたとしても……
優萌より
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