第90話「罪深き海賊たちの最期」
ジェイドは、放心状態の鞭使いの海賊に頭突きを食らわせた。ベリルも、ほぼ同時に船大工の手下にひじ打ちをかます。
そしてジェイドとベリルは、ふたりの海賊の尻に思いっきり蹴りをお見舞いした。
海賊たちがよろめく。そのすぐ後ろは地獄の門だった。助けを求めながら、海賊たちが、空中であわあわと手をばたつかせる。
「「おっと」」
ジェイドとベリルは、海賊の鞭とハンマーをつかんで、門に落ちる寸前で海賊たちを支えた。でも依然体重は門の中に落ちようとしている。ふたりが手を放したら、すぐに落ちてしまうだろう。
ジェイドとベリルは、それぞれ自分が支えている海賊に笑いかけた。
「逝く前に、これは返してもらうぜ?」
「せっかくの戦利品だからね。きれいだし、気に入ってるんだ」
ジェイドとベリルは、海賊が自分たちから奪って腰に差していたダガーとナイフを取り返した。
「「それじゃ」」
ふたりが同時に手を放す。ジェイドは、笑いながら手を振った。
鞭使いの海賊と船大工の手下は、悲痛な叫び声をあげながら穴の中に落ちていった。
全身の皮膚が剥がれ、血が噴き出して焼け散っていく。苦し気な断末魔の叫び声とともに、業火に包まれながら地獄に落ちていった。
「悪魔は封じられた。悪魔の力からは解放されたろう? いい加減にいつものお仕事にもどってくれねぇか?」
ジェイドが宙を舞う堕天使に向かってそう言うと、堕天使たちは大鎌をかまえなおした。
「子どもたちの命を長い間奪い続けたこの海賊たちに、審判を。彼らをあるべき場所に送ってよ」
次いで、ベリルがそう言う。
すると、堕天使たちは、海賊たちのほうを見やった。ゆるゆると海賊たちを追い詰める。空を見ると、いつの間にか空にも、ぼろぼろの黒衣に身を包んだ堕天使が舞い、海賊たちを襲わんとしていた。
海賊たちは、恐怖のあまり絶叫した。押し合いへし合い我先に逃げようとする。お互いに道を譲らず、揉み合ううちに一人また一人、堕天使の大鎌に身体を貫かれて、地獄の門の中に放り込まれていく。
大混乱だった。だれ一人子どもに構うものはいなかった。逃げ惑う海賊たちは、一人として逃げおおせることはできず、残らず地獄に落とされていった。
穴の中からは、海賊たちの無数の声が聞こえてくる。だが、容赦なく、地獄の門は閉じられた。巨大な鉄の蓋が閉まると、一切なんの声も聞こえなくなった。
この場所には、ジェイドとベリルとスピネル。そしてクリスタルの瓶を持ったクリード。ロープにつながれた子どもたちだけが残った。
堕天使たちが、空から地上に降りてくる。大鎌を携え、子どもたちを囲んだ。子どもたちにとっては、黒翼のガイコツは、海賊以上に恐ろしいだろう。多くの子どもはおびえている。
「終わった……」
ベリルがそう言って、白い丸石の上に崩れ落ちた。撃たれた肩を押さえる。
「ベリル!」
「だいじょうぶ?」
「お兄ちゃん」
ジェイドとスピネルとクリードが駆け寄った。肩から出血が止まらない。そんな三人の前に、堕天使が舞い降りる。じっと、ベリルだけを見つめていた。
ジェイドは、ベリルの前に立ち、とっさにダガーを構えた。ベリルが、すぐに、そんな兄のシャツを引っ張る。
「バカな真似はやめろって。堕天使とケンカするもんじゃないよ」
ベリルは笑ってみせた。堕天使がベリルに近づく。
「今日が僕の運命の日って言うんなら、受け入れるよ」
「なに言ってんだよ、ベリル!」
すると、その堕天使は自らがまとう黒衣を鎌で切り裂いた。そして、身をかがめて敷き詰められた石の中から、拳ほどの大きさの白い石を拾いあげる。それをベリルの傷口に当てた。
裂いた黒衣を包帯のようにして傷口を縛っていく。
「いてっ」
布できつく縛られて、ベリルが短く声を発する。ただ、血が止まり身体が楽になるのを感じた。
「ありがとう」
「へえ……。堕天使は見かけによらず親切らしい」
ジェイドが、笑いながら立ちあがった。
「お、お兄ちゃんたち、助けて!」
子どもたちにも堕天使たちが近づいていた。だが、堕天使たちは、子どもたちを縛りあげているロープをその鎌で切った。
堕天使たちがみな、丘を下る道を指さす。
「帰れってことかね」
ジェイドが言った。
「うん。船に急ごう」
「そうだな。しかし、悪魔を封じた今、船が無事ならいいけどな」
「みんな、怖い悪魔も海賊たちもいなくなったよ! みんなでお家に帰ろう!」
スピネルが子どもたちに笑顔で言った。
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