第八章 兄弟、最後の戦い
第78話「潜伏と探索の終わり」
船長室はとても広々としていた。
彫刻がほどこされた立派な机とイス。テーブルに棚の中の食器類。どれも手入れが行き届いている。航海日誌を見つけられれば、悪魔の名前に関する手がかりが見つかるかもしれない。
しかし、すぐ壁の向こうの怯えた声がそれをゆるさなかった。早く出て来いと海賊たちも怒号を浴びせてくる。子どもたちの悲鳴がふたりを焦らせた。
船長室の暗がりから、二つの影が、船上甲板へと出てくる。ジェイドとベリルだった。
「なっ!? 本当に船長室から出てきやがった!」
海賊のひとりが、驚きの声をもらす。
ジェイドとベリルは、甲板に集合する人々を見やった。牢にいた子どもたちを多くの海賊たちが囲んでいる。ふたりを追いかけ回していた犬好き海賊(とその犬)もいれば、ジェイド捕物帳を演じた甲板長や足刺されの海賊もいる。捕虜牢の見張りをしていた船大工の手下もいた。そのほかにも多くの海賊船員たちが甲板にひしめいていた。
子どもたちの中にスピネルもいて、ふたりを見ていた。顔は強張り、悔しさがにじみ出ている。目元は泣いていたかのように赤かった。
海賊大尉が、ニヤニヤと笑いながらジェイドとベリルを見やって、手で、おいでおいでとした。
ふたりは、ちょっとお互いを見交わすと、だまって海賊たちに近づいた。
「ベリル、あの背の低い太ったのが船長だ。紫色のコートを着てるやつ」
「了解」
「気を抜くなよ、こっちのカードはクリスタルの瓶だけだ」
「わかってるさ」
ベリルが見ると、ビロードのコートを羽織るずんぐりと太った男が海賊たちの中にいた。
「久しぶりですなぁ、船長殿?」
大尉を無視して、ジェイドは不遜な態度で船長に言った。その言葉に、大尉のにやけ顔が、すーっと真顔にもどり、そして険しくなってくる。
兄弟は、ずんずんと海賊船長の前に進み出る。
海賊たちは、皆一様に武装していた。大尉が腰の銃を抜き放つ。同時に、横からジェイドが何かを突きだした。大尉が声をあげて身をそらした。
ジェイドが手にしていたのは、クリスタルの瓶だった。
囲む海賊たちも、顔色が変わる。近くにいたものは、息を呑んで後ずさった。
「どうやら、お前らもこれが怖いらしいな。拾いあげた時は、さぞ、きれいな宝だと思っていたんじゃないのかい?」
「信じられんな。じゃあ、本当に貴様ら門番を……。侵入者には容赦ないあの怪物を仕留めたというのか」
甲板長がそう言って目を見張った。
「仕留めたって言う表現が当てはまるかは微妙なところだけどね」
ジェイドが言葉を返す。
「見ていたよ」
船長はそう言った。
「部屋を守ってくれていたわたしの友が落ちていくのが」
船長は、ふたりをまっすぐに見てそう言った。
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