第六章 捕虜牢の子どもたち
第50話「捕虜牢の子どもたち」
捕虜牢は、ジェイドの予想通りオーロップデッキにあった。これまで見つけられなかったのは、ふたりが探索してきた部分とは別エリアだったからだ。
大工の通路を通ってジェイドが連れ込まれたのは簡素な部屋だった。ランプがいくつもあって、室内は明るく、ジェイドは一瞬、目を細めた。
すぐに目は慣れて、その部屋を見まわすと、奥の壁沿いに棚があって、ハンマーやノコギリなどの大工道具が箱に入っていた。
それを見て、ここは船大工の作業部屋なのだとわかった。
入り口から見て左の壁には長いテーブルがあり、イスに座って二人の海賊が向き合って酒を飲んでいた。テーブルの上には酒瓶が何本も並び立ち、蓋つきのジョッキが置いてある。骨だけになった骨つき肉と同じく骨だけになったリンゴが皿に転がっていた。
ふたりのあいだには、丸い盤が置かれ、サイコロが三つ転がっていた。王冠と碇というギャンブルゲームだ。ふたりとも、だいぶ酔っている様子だった。
「新入りだ。こいつも牢にぶち込んどきな」
うしろにいた海賊(ジェイドに足を刺されたあの海賊)が、そう言って、ジェイドの尻を蹴り上げる。
ジェイドは前によろめいた。後ろをちらりと見て舌打ちした。
椅子に座っていたふたりが、ジェイドに顔を向ける。
「こいつは?」
奥に座る男が聞いた。腕が太く身体もがっちりとしている。だが、イスに座るその左足は義足だった。
こいつが、大工長か。
ジェイドはそう思った。船大工たちをまとめる大工長。幹部の一人だ。
「
ジェイドの手首につながれたロープを握るもうひとりの海賊がそう答える。
「やけに上が騒がしいと思ったら、ネズミ狩りをやってたんですねぇ」
手前に座っていた男が立ちあがる。
大工長は、座ったままジャケットの前掛けをめくると、腰に下げていた鍵束を外して、部下に放った。大きな黒い鍵がいくつかついていて、その中に、銀色にきらめく小さな鍵が混じっていた。なんだか場違いな美しさだった。
「入れておけ」
大工長が、船大工の手下に命じる。
「わかりやした」
カギを受け取った手下は、ランタン片手に奥の扉を開く。出入り口から見て右側の壁だった。扉とは別に、ガラスもなにもはまっていない大きな窓が一つぽっかりと空いている。
その窓からジェイドは、奥をのぞいた。とても暗く、よく見えない。
海賊が、ジェイドのロープを引っ張る。足を刺された海賊も、突っ立ったままのジェイドの脇をつかみ、引きずるように、その奥の部屋に連れていく。
その部屋は、とても広かった。手前は大工道具を保管したり、破れた帆を縫いつけて修繕する大きな作業フロアのようだ。奥には黒い鉄の棒が並び、本来一つのフロアが二つに分けられ、牢屋が設けられていた。
左右と奥は壁に囲まれていて、右に小さなのぞき窓がありはするけれど、脱出は不可能な造りだ。壁は木だが、そうは言っても薄い板ではない。しっかりとした太い木材で組んだ壁だ。蹴破ったりすることは到底不可能だろう。
「やれやれ」
船大工の手下は、ランタンをかかげながら目を細めて奥に進む。途中、つま先でレンガのようなものを蹴飛ばした。
「イテッ!なんだ、ちきしょう」
手下が、いまいましげに声をあげる。
蹴飛ばされたレンガのようなものは、ゴロゴロと床を滑り牢屋の鉄柵に、カンと当たって止まった。その音で、たくさんの怯えたような声が奥から届いた。
牢屋に近づくとジェイドは、ランタンに照らされた子どもたちの顔を見て驚いた。まさかこんなにたくさんいたとは。ざっと見ても五十人はいるだろう。見たところ、十五歳のジェイドよりもみな、だいぶ年下だった。十歳を超えている子どものほうが少ない。みんな、足をロープできつく結ばれていた。
「冗談だろ。牢に入れるだけじゃあ、不安だってか? 海賊が子ども相手に、どこまで用心深いんだか……」
ジェイドは、あきれたように笑った。
「大人しくしていろよ」
ジェイドにそう言いながら牢の大きな南京錠の鍵を開ける。ジェイドをここまで連れてきたふたりの海賊が、牢の中にジェイドを押し込む。ジェイドは、そのままバッタリと床にたおれこんだ。
「うぐっ!」
子どもたちが、小さく悲鳴を漏らす。
海賊たちは、ふたりがかりで、ジェイドの足もロープできつく結んだ。そして、すぐに牢の扉をしめると、また南京錠をかけるのだった。
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