第49話「船底のベリル」
夢から醒めて、ベリルは一瞬、自分の状況が分からなくて混乱した。
「ああ、そっか……。船倉に逃げ込んで、そのまま寝ちゃったんだ。──あれ?」
頬が、濡れていた。
「なに泣いてんだよ。ったく」
不気味な木が軋む音がそこら中から響いている。ベリルは、丸い盾をその身に抱いた。
ここへ逃げ込んで、しばらく身を潜めていたベリルは、近くにあった樽の丸蓋に落ちていたロープを結び付けて握りをつけ、特製の盾を作ったのだった。
何のために盾を作ったのかは、ベリル本人にも分からなかった。それは、身を守るためと言うよりも、迫りくる恐怖や一人になってしまった孤独から心を守るための無意識の行為だったのかもしれない。
ドシ、ドシ、ドシ……。
「!?」
頭上から足音が聞こえて来て、ベリルは身を縮こまらせた。数人の足音がする。そして、足音に混じってかすかに声が聞こえる。
「海賊さんたちよぉ! どこまで連れて行く気なんだよ!?」
かすかだが、ジェイドの声が聞こえる。海賊たちもジェイドになにか言っているが、その声は聞き取れなかった。
ジェイド、捕まっちゃったんだ……。
そう思った時、一気に不安が高まった。と、同時に、自分が心のどこかで、兄なら何とか逃げ切って助けに来てくれるかもしれないと淡い期待を抱いていたことにも気がついた。
「ったく、なんにもしていないのに、牢屋に入れられるとはね!! やれやれ、やっと着いたのか!? ロープで縛られてるから歩きにくくってしょうがなかったぜ!!」
わざとらしい大声。それは、船底に潜んでいるはずの弟に居場所を教える行為に他ならなかった。
足音と声はやがて聞こえなくなった。
また船倉には静けさが戻った。
「何やってんだよ、僕は」
そう言って盾を見つめる。
「こんなの、ただの現実逃避だ……」
動かないと。ジェイドを救う手立てを考えないと。
「こういう時、ジェイドならどうする……。はぁ、ジェイドならどうする、だってさ。皮肉ったらありゃしないな」
ベリルは、山積みにされた樽を見上げた。
「僕はジェイドじゃないんだ。意外な考えなんて思いつかない。ちゃんと地に足つけて、自分の頭で考えろ。船倉にあって、ジェイドを救うのに使えそうなものは……」
船倉に保管されているのは、食糧と水、、砲弾や火薬、木材。
──さあ。船倉からどのアイテムを持ち出す?
少し考えると、ベリルは動き出した。
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