第24話「海賊の手記」

 ベリルは、棚に置かれているランタン(ここへ来た時にジェイドが持って来ていたランタン)を手にして、ジェイドの手元を照らした。


 黄ばんだ四角い布が張り付いていて四隅に釘が打ちつけてある。


「ほらな?さっそくコイツが必要になりやしたぜ、旦那?」

「はいはい、わかったよ」


 ジェイドが、手に入れたばかりの手術ナイフで布を切り裂いた。すると、何かが床にすべり落ちてきた。


「「!?」」


 ベリルが拾い上げる。それは古びた革の手帳だった。


『海底から美しいクリスタルの瓶を引き上げた。いつの時代のものなのだろうか?こんなに美しいものを見たのははじめてだ。どれほどの価値があるのかわからない』


 最初のページに、そう書かれてある。


「海賊のだれかが書いたのかな?」


 のぞき込んでいたジェイドが首をかしげる。ベリルは、次のページを開いた。


『クリスタルを、船長室に運ぶ。汚れを落とすと表面に緻密な彫刻が現れた。やはり美しい。銀の留め具で栓がしてあり、栓は紫色の別の宝石のようだ。紫水晶かアメジストか。あるいはタンザナイトかもしれない。クリスタルは透明だが、不思議なことに中身は透かし見ることができない。中に、なにか入っているのだろうか?』


 その次のページからは、何枚かページが破られている。その後には、なにも書かれていなかった。


「なんでこんなとこに隠したんだろうな?」

「気にはなるけど、今は早くここから出よう」


 ベリルは、開いた扉を見やってそう言った。手帳を閉じるとポケットにしまう。


 ふたりは、海賊たちによって開かれた扉から用心深く外へ出た。大工の通路を船尾方向へ、つきあたりまで一気に進んだ。


 つきあたりの扉をそっと開ける。暗くて静まり返っている。人の気配はなかった。慎重にふたりは中へ入った。


 ランタンの薄明かりで部屋を照らす。

 壁に沿って引き戸や木箱が置いてある。扉と真反対にも、扉のない出入口があって、奥にも部屋がつづいていた。


 ざらついた空気が肌にまとわりついてくる。湿った空気に混ざり、古い油や腐った木や錆びた鉄の臭いが部屋に満ちていた。それは、船乗りのふたりにとって嗅ぎ慣れた臭いでもあった。


 ジェイドが、引き戸を開けて中を確かめる。


「ロウソクに……、下の段は、マッチ箱が入ってる」

「こっちの木箱には、バケツが入ってる。中はランタン用の油みたいだ」


 ベリルが、小ぶりなバケツを一個手に取ってそう言った。


「照明用の物資を保管してるみたいだな」

「うん」

「その油、ランタンに補填しとけよ。途中で消えたらまずいからな」


 ベリルにそう言うと、ジェイドも、マッチ箱を一つポケットに入れるのだった。

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