第23話「戦利品〈アイテム〉入手」

「ジェイド、僕、もう無理」


 手術室に転がる樽の中から、ベリルが這い出す。「おえっ!おえっ!」と、咳きをしている。弟につづき、ジェイドも這い出てきた。


 ふたりとも汁まみれだった。腐敗した手足から出た変な汁。それとウジ虫を押しつぶしてついたなんとも嫌な汁。


「平気か?」


 バタバタと服をはたく弟を見て、ジェイドは言った。訊かれたベリルは、不快感たっぷりの表情を兄に向ける。


「平気かって!?まったく、平気だよ?腐った手足とウジ虫の汁まみれってこと以外はね。本当に吐きそうだ」


 そう言ってベリルはなおも、服をバタバタとさせた。服の中にウジ虫が入り込んでいるような気がして、とても気持ちが悪い。


 ジェイドは、短く息をつくと眉を上げた。ポーチからなにかを取りだすと、ベリルに差しだす。ガムだった。


「ミント味だ。ごまかしにはなるだろ」


 ベリルが、一個受け取る。

 ジェイドも一個、口に放り込んだ。包み紙をくしゃくしゃ丸めて捨てると、三人の海賊たちが去っていった扉へ向かった。


 そっと扉を押してみる。きしみながら、扉が開いた。


「バカなやつらだなー。かんぬきを掛けずに行きやがった」

「はやくここから出よう。やつら、だれかを呼んですぐに戻ってくる気だよ」


 たしかに。幹部たちに伝えると言っていた。

 ジェイドは、部屋を見渡すと、床に転がっていたあの鋭利な手術ナイフを手に取った。


「なにしてんの?こんな時に、追いはぎごっこかよ」


 ベリルはあきれた。すぐにここから逃げなければいけないのだ。


「なにかの役に立つかもしれないだろ?」


 ジェイドはそう言いながら弟の顔を見上げたが、そのまま無言で一瞬黙った。


「なに?」

「あ、いや……。あれっ、なんだそれ?」


 別のなにかに気づいて、ジェイドがそう言った。


「え?それ?え?」


 ベリルは、自分の身体をあちこち見た。別になんともない。変な汁で汚れている以外は。


「それだよ!」


 ジェイドが、ベリルの横に転がっている樽を指さす。腐った手足が転がっていて、すでにウジ虫が、その肉を求めて群がっていた。ベリルは、苦い顔をして飛びのいた。


 ジェイドが、樽の前にひざまずく。


「樽の底に、なんかくっついてる」

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