第2話 東海道を東へ
朝方はあれほど晴れていたのに、見渡す限り空は曇っていて雨でも降りそうだった。惣兵衛は速足で京都の町を抜けて、小山に囲まれた山間を越える。しばらく
多少の起伏はあっても若い惣兵衛には屁でもなく、峠を越えればなんとも雄大で海のような琵琶湖を一望できるのであった。
「いつ見ても壮観やな」
この辺までなら店の使いで訪れたこともある。
周りを見渡して見ると、京都の近くだからか街道を歩くのは旅芸人や行商人が多かった。少し身なりの良い着物を着ているのは、どこの若旦那だろうかと、そんな考えに
それから、日も高いうちに大津を横目に先を目指す。一刻もすると惣兵衛はまだ明るいうちに
「雨や…」
濡れないように軒先に避難して、雨雲の機嫌を窺っていると、どんどんと雨はその勢いを増していくのだった。
「こりゃ、直ぐには止みそうもないわ」
笠をかぶって濡れてでも進もうかと迷ったが、それは視界を遮る程の大雨となって行く手を
それからは
「この先は十分に気を付けてくださいね」
店先で旅籠の主人が心配して見送ってくれた。
「お気になさらず大丈夫ですから」
惣兵衛は軽い口調で答えて宿を後にした。
後ろからは「ほんまに大丈夫やろか」という声が聞こえる。
山越えをするには良い状態とは言えないけれど、今日は人里を越えることはない。鈴鹿峠を越えるためには
東海道の海側に向かうために山裾を歩くのだが、街道筋には町屋が立ち並んでいる。惣兵衛は店先の郷土品に手を伸ばしそうになって路銀は少ないと引っ込める。
何度か小雨は降ったが、笠でしのげるほどであった。
街道を
惣兵衛は街道の人混みから露天商を探す。
「そこの物売りさん。わらじを売ってくれませんか?」
「はいはい。御兄さんの履いている形でいいね」
露天商の男は大きな商品をつんだ移動屋台から、わらじを掴みだした。
「ええ」
「ほなら、八
惣兵衛は袖から八文を取り出して渡した。
この日、雨に濡れた地面を歩くのに疲れて、へとへとになりながら夕暮れ前に土山宿に泊まったのであった。
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