争いは、同じレベルでしか起こらない

《宿屋》


 ある程度、モンスターを倒して金策をしたので宿をとった。

 というかモンスターまで剣と盾を持ってるのはどうなのよ。


 しかもカニが強敵って何?

 ハサミが剣であり盾でもあるって卑怯だろう。

 まぁそれでも鈴谷さんがサクっと倒したので問題なかったが。


「随分簡単に倒してたけど、あれって何なんすか?」


 酒場で夕飯を食べながら尋ねる。


「ダイヤ様から授けられたチート能力”ステータス増加”です。瞬間的に任意のステータスが何十倍にもなります」

「じゃあ攻撃が当たる瞬間にだけ力を上げたり、回避するときだけ素早さをあげたり……?」

「できます。ちょっと大変ですけど」


 マジか、便利だなぁ。

 しかも汎用性もある。

 ただひとつ気になる点がある。


「それ、瞬間的に全ステータスが上がるとかじゃダメなの?」

「それについては私から説明しましょう。チート能力というのにも種類があり、ランクがあります。このランクが高いほど使用者に大きな負担がかかるのです。凜音ちゃんの”ステータス増加”はBで少し高めで、これ以上はまだ危ないですね」


 俺の疑問には省エネモードのダイヤ様が答えてくれた。

 ……小さな妖精の姿なのだが、小指の先よりも小さいせいで虫に見えてしまう。


「それで、陸奥さんはどういったチート能力なのですか?」

「あ、ごめん。苗字はあんま好きくないから名前で呼んで」

「す、すみません。次から気をつけます」


 鈴谷さんは悪くないんだけどね、ちょっと良い思い出がないからね。


「俺のチート"データアシスト"は凄いよ。色々なデータを参照できるから、あと何回の攻撃で敵が死ぬとか、何発まで耐えられるとか、全部計算してくれる!」


 まぁブレ幅があるデータと確率には滅法弱いけど。

 ダメージ下振れ三連続で敵のHPミリ残りとか、90%の命中率が外れるとか。

 その代わり固定値とか確定したデータは絶対に裏切らないのでそういったミスがなくなる。


 だというのに、対面の二人は凄く微妙そうな顔をしている。


「あの……言いにくいことですが、それランク外のチート能力……」

「ッスゥー……それ、強すぎって意味ですよね?」

「いえ、逆ですが……」

「ウソだろダイヤ様!? めっちゃ便利っすよ! 乱数さえ発生しなければ絶対にミスしないんすよ!?」

「乱数すらねじ伏せるチートの方が便利なのでは」

「………」

「というかそれ、現状の手札で勝てる相手にしか勝てないわけですし、それを何とかして逆転する為の手段がチート能力ですし……」

「ニェちゃま! 君の意見を聞こう!」

「お前にピッタリのチート能力でシ」

「クソがぁ! こんなことならリセマラしたかった!!」


 いや何度もリセットというか死んでるのにずっとこのチート能力だから意味ないのか。

 やっぱ異世界転生ってクソだわ。


「そんなことよりお前はモテる方法を考えた方が建設的でシ。たとえば今もそっちの女に名前呼びさせといて自分は苗字呼びとか距離を置きたいように感じるでシ。ここはお互いに名前呼びがいいでシ」

「なるほど、一理ある。そういうわけで俺も名前で呼んでもいいっすか?」

「え、あ、まぁ、お好きなように……」

「よし、完璧なコミュニケーションでシ」

「ニェ先生、なんか凜音さんの歯切れがすっごい悪かったように思えるんですが」

「ニェ先輩、名前呼びっていうのは自然と距離感を詰めてからやるものです。今みたいに追い詰めるようにやったら逆効果です」

「えっ!? じゃあもしかして俺嫌われた!? 凜音さん! 俺のこと嫌いになった!?」

「そ、そんなことは……」

「ふぅー、俺はセーフだったか」

「いえ、アウトですよ。普通は面と向かって相手に嫌いって言えません。ニェ先輩と同レベルです」

「なるほど……つまり俺は神と同じステージに立ったと?」

「だからお前はモテないんでシ」

「お前もだろうが! お前もよぉ!!」


 そんなこんなで騒ぎながらも夕食を終えて各自、部屋に戻る。

 ちなみに部屋割りは2:2というか1人用の部屋を2つとってある。


 本来なら女性組と男性組といった感じで別れた方がいいのだが――――。


「すみません。知らない人がいると眠れないので……」


 と言われたのでニェはこっちで引き取ることになった。

 ベッドは1つしかないが、まぁこいつちっちゃいし2人で使っていいだろ。


「むぅ、この身体は不便でシ。おい、ちょっと背中を洗うでシ」

「はいはい」


 ちなみにこの宿には風呂という贅沢品がないので、水の入った大きな桶を使って身体を拭く。

 そしてコイツは身体が小さいので丸ごと桶に入って身体を洗っている。

 俺もあとで使うこと考えてねぇだろ。


「それで、ときめいてるでシか? こういうシチュは好きでシ?」

「へぁ? あぁ、まぁ好きだけどなんか違う。なんかこう、ドキドキのドの字もない。ってかもう妹とか親戚の子を風呂に入れてる気分」


 俺の性癖ストラクな外見をしているというのに、一向におかしな気分にならない。

 距離感が近すぎて逆に変な目で見られない的なやつだろうか。


「ニェも同感でシ。もっと精進するでシ」

「へぃへぃ。背中洗い終わりましたよお嬢様っと」

「よくやったでシ。それじゃあニェは寝るからあとは好きにするでシ」


 そう言ってパパっと着替えたニェちゃまはベッドに潜ってしまった。

 好きにしろってことは今の内にこいつを外に放り投げてもいいってことだろうか。


 いや、普通に帰ってきてしばかれるな。

 もっと強くなったらこのメスガキを分からせてやる。


 ソクラテスの本とか読ませれば人間というものを理解できるだろうか。

 いや、武士の教科書である葉隠という手も?


 そんなことを考えながら桶の水を見ると解析できることに気付いたので興味本位でやってみた。


【神の浄水:神の穢れを洗い流したこの浄水は剣に特別な切れ味を約束する】


「凜音さん! ダイヤさん! ニェが使った残り水を剣に塗って! 攻撃力が二倍になるから!」


 あまりにも凄い効果だったので急いで桶をもって二人が部屋に入ったのだが、ドン引きされた。

 解せぬ。

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