第63話 永遠の彼方ってかっこいいよね?2

 俺たちのクラン結成は一瞬で全校生徒に知らされ、午前以上の騒がしさが校内を包み込んでいた。

 

「おい、北小路たちがクランを作ったって……」


「終わった……俺たちの学園生活が終わった……」


「いや、まだ枠は余っているはず! なんとしてでも、残りの枠に入れてもらおう! そうすれば、一発逆転だっ!」


 と、いった感じで絶望している生徒もいれば逆に希望を抱いている生徒もいる。

 まぁ、よっぽどのことがない限り、俺たちのクランは仲良しグループで結成しているので新規加入は受け付けない予定だ。


 特別仲良くなって、みんなが認めた時は別だけど、そんな人滅多にいないだろうしね。

 そう考えると、透って本当にレアケースだと思う。

 今も、楽しそうに朱音たちと話をしていて、すでに俺たちのグループにいても違和感がないくらいに馴染んでいる。


 全くもって、どうして透がCクラスなんかに分けられていたのかが謎なくらいである。


「お、早速クラン戦を申し込まれたぞ。相手は……『深紅の魔術師』だって。二年生で構成されているクランみたい」


 耳が早いことで、早速俺たちのクランに勝負を挑んできてくれたところがあるみたいだ。

 クラン戦も、決闘と同じく基本的にはいつでも勝負が可能である。


 ただし、クラン戦の場合決闘とは異なり準備に時間とお金がかかるため一日に一組しか受け付けていないみたいだけど、今はまだ空いている。


「いいじゃない。楽しそうだし、受けてみない?」


「いいねぇ。早速腕がたぎるぜ!」


 その他のみんなも満場一致で賛成というわけで、俺たちの初めてのクラン戦がこの日決まることになった。

 決闘をする前に、クラン戦とは少しだけ忙しい気もしないでもないけど、大人数で戦う方が面白そうなので、俺も意義なしである。


「おっけー。じゃあ承認しておくね。勝負形式はどうする?」


 クラン戦も、決闘も原則として勝負を受けた側が勝負形式の選択権を有する。

 俺の携帯端末にも、攻城戦、大将戦、混合戦、そしてなんでもありの乱闘戦と4つが表示されている。


「蒼の好きなのでいいよ」


「んーじゃあせっかくだし攻城戦ってやつやってみようよ。人数が多い方が有利らしいけど、そっちの方がみんなもやりがいあると思うし」


 『真紅の魔術師』はCランクのクランとなっていて、大体が二年生のCクラスだったりBクラスの先輩で埋まっている。

 クランリーダーと後数人はAクラスの三年生がいるし、きっと面白い戦いになるはずだ。

 人数的にも、俺たちの方が不利だけどせっかくならみんな派手に動きたいだろうし、このくらいでちょうどいいと俺は思っている。


「承認っと。今日の放課後に、第二クラン競技場に集合だって。武器も持参でいいらしいよ」


「おっけー。楽しみだね。私の魔眼が……」


「どうでもいいけど、それ結構厨二病っぽ……」


「はいどーん!」


「の、呪いは洒落にならないから許してぇ……」


 最後に、みんなの笑い声が晴天の空に響き渡った。





 案の定というか、まぁ予想はしていたけど俺たちが校舎に戻って、教室で実技の時間の準備をしていると、クラスメイトの視線がバンバン突き刺さった。

 外もかなり騒がしいし、改めて十傑の影響力の大きさを感じた。


 ふむ、人気者も悪くない。


「チッ、なんでお前なんだよ」


「んあ”ぁ”?」


「はい、どーどー」


 準備を終えて訓練場に向かう際に、ぼそっとつぶやく程度だが喧嘩を売られたので、そのまま買ってやろうと思ったら、琴葉に止められた。

 前にもあったなこのシチュエーション。

 あの時は、朱音のおっぱいに免じて許してやったはずだ。


 うむ。今回も特別に琴葉のおっぱいに免じて許してやろう。


 エロは世界を救うのだ。


 俺がクランリーダーになったことによって、前よりもさらにヘイトを買っている気がするけど、別に特段気にする必要もない。

 もし、必要があれば俺からコミュニケーションを取りに行けばいいだけだしね。


「今日から正式に決闘とかクラン戦とかが解禁されたから、僕の授業でもより戦いに特化した授業をしていくし覚悟しときや」


 午後の実技の授業が始まると、柊木先生はいつもと同じようにアウラの召喚や基礎的な練習ではなく、より実践向きの授業を始めると言った。

 そのためにも、まずは戦術や戦っている最中になにを考えなければならないのかなどの話に入ったが、さすが実戦を経験しているS級魔法師ということもあって、俺たちにもためになる話をしてくれた。


 ちょっとリアリティーがありすぎて、何人かの生徒は始まる前から顔を青くしていたけど、そこは葛木先生やBクラスの先生がフォローを入れているようだった。


「今日からは3つのグループに分かれて実践授業をしていく。まずはA班。これは僕が担当する。かなりきついけど、全部ついて来れたら将来軍でもかなり活躍できると思うわ。もしあれやったら、僕から口添えしてもええよ」


 その言葉に、クラスメイトたちは息を呑んだ。

 それもそのはず、S級魔法師の口添えだ。それにはただのお金以上の価値があり、将来エリートコースに進むには非常に有力な切符となる。


 これを聞いて、みんなの目の色がガラッと変わったけど、そう簡単には上手くいかない。


「ただし、A班にくるにはまず葛木くんが担当するB班で、葛木くんが許可を出すこと。最初は十傑と後数人しかA班には入れるつもりはないよ。もし、どうしてもきたかったら、横着せずにやるべきことをきちんとすることやな」


 とまぁ、当たり前ではあるがみんながみんなA班の授業に参加できるわけではない。

 ある一定の努力と実力が認められなければ、きっといてもただキツいだけで実技の授業を受けている意味がなくなってしまう。


 というわけで、ほとんどの生徒はまずB班からの開始となるが、多分B班も他のクラスの実技の授業に比べればハイレベルなことをするのには間違いないはずなので、俺は心の中で落胆しているクラスメイトたちにエールを送った。

 一方、俺たちは最初からA班な訳だが、これからは自分が優れているから余裕でこなせるとは考えない方がいいだろう。


 俺たち十傑は一度、講師陣相手に模擬戦で勝利を収めているのは確かだが、あの時はかなり手を抜いている様子だったし、S級魔法師があの程度のはずがない。


「よし、じゃあ早速僕の方も初めていこか。実は既にもう君たちのやることはここにまとめてきたから、これ見ながら頑張ってな。僕は要所要所でアドバイスを入れていくわ」


「10分間で腹筋背筋、腕立てを1万回ずつって、普段のトレーニングでもなかなかしないぞ……」


「ちなみに、武田くんにはそれを10セットしてもらう予定やからな。一回でも失敗したら一からやり直しや」


「僕は正確な魔法陣の組み立てか……って、もしかしてこの分厚い本の中全部その指示が書かれてるの?」


「もちろん。武田くんと同じく、伊達くんも失敗したら最初からやしな。正確さも大事やけど、スピードも必要やで」


 龍之介のはいうまでもなく苛烈だが、湊の課題も相当大変そうだ。

 多分あの分厚さだと1000ページは超えているだろうし、中を少し見せてもらったら、びっしりと魔法陣が書かれていた。


 ……頭が痛くなるね。


 それから、柊木先生は宗一郎や俺はもちろんのこと、朱音たちにもそれぞれ課題を与えて、地獄の実技の授業が始まってしまった。

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