第38話 試験開始5
さてさて、ようやく俺の番がやってきました。
相手はこの獅子王学園の学園長である毬乃さんだ。
一体何の罰ゲームなんだろう……
毬乃さんは女性初のS級魔法師だし、厄災級のアウラである最高神ゼウスと契約してるから確か不老だったはずである。
彼女の年齢を聞いたものは、みんな無事では帰って来れなかったらしいので、年齢の話はご法度である。
ただ俺たちが生まれた頃にはすでに第一線を退いてこの獅子王学園の学園長をやっていたため少なくとも50歳以上なのは……うわっ!
「あの……どうしました?」
「ふふっ、何やら一条くんから邪な視線を感じたからな。とりあえず魔法を打った」
「そんな無茶な……」
うん。やっぱり女性に年齢を聞くのは良くないみたい。
ちなみに最高神ゼウスは厄災級第6位でミカエルの一つ下の順位だ。
最高神が天使よりも順位が低くてどうすると突っ込みたいところだが、ミカエルは大天使な上非常に特殊なので仕方ない。
というか、もう一桁はみんな誤差みたいなものだし、あまり関係なかったりする。
「さて、雑談もいいがそろそろ始めようか。せいぜい楽しませてくれよ?」
「もちろんです。僕だけ十傑を降ろされるのは嫌ですからね」
俺はミカエルに合図をしてゼウスの相手をしてもらうようにした。
2対2の構図でも悪くはないけど、なんとなく毬乃さんも俺と1対1で戦いたそうにしているので、それに乗ることにした。
観客席もアウラ同士が戦っている方が見応えあると思うしこれでいい。
「では始めよう。先手は一条くんに譲ろう」
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて……ドロン!」
「ふむ、忍術か……なかなか器用だな」
俺は煙に隠れて毬乃さんを狙う。
一応刃は削いであるけど、手裏剣然りクナイ然り当たると普通に痛い。それに加えてちょっとした魔法も加えているので多分かすると無条件で俺が勝つようになっている。
殺傷能力はないものの、勝負を決めるのにはちょうどいい武器だ。
「残念。忍術は私も少し齧っていてね。気配でわかる」
「あっぶな」
毬乃さんは的確に俺の隠れているところに、どこからともなく出てきた剣を投げた。
しかもちゃんと刃があるし……
刺さったらどうするつもりだったんだ!
ちなみに、どうして俺が忍術を使えるのかというと一重にティア達のおかげである。
ティア達はそれこそ世界最高峰の実力者でもあるので、さまざまな術や戦い方を知っている。なので、先生としては申し分ない。
昔から、ティア達には「女の子を守れるくらい強くなりなさい!」と言われてきているし、今も毎日三時間ほどは訓練に付き合ってもらっている。
日によって担当は違うけどみんな様々な分野のエキスパートなので学べることも多い。
俺以上にいい先生を持っている人もいないはずだ。
ということで、この忍術はアーニャに教わったものなんだけど、毬乃さんには通用しないみたいだ。
「じゃあ今度は近接戦でっ!」
「ふむ、対古式軍用格闘技とはまた懐かしいものを……」
「これ知ってるってことは少なくとも800歳以上は……」
これもティアに教えてもらった型なんだけど、確か対古式軍用格闘技って戦争時に軍の幹部達が使ってたもののはずだ。
それを毬乃さんも使えるということは少なくとも800歳以上……
「そいやっ!」
「うわっ!」
「戦闘中に他のことを考えるとは随分と舐められたものだな。生徒じゃなかったらそのまま殺してたぞ」
「いや十分死にそうなんですけどね」
思いっきり首から着地するように投げられたしね。
俺が受け身を取ってなかったら今頃天国に行って両親に会ってただろう。
序盤戦は両者五分五分、いや俺が色んな手札を出している点も考えて少し俺が有利くらいのはずだ。
俺の場合、戦い方にいろんなバリエーションがあるためどんどんと披露して行っても対策の取りようがないので全く問題ない。
強いて言えば贈り物は対策可能かもしれないが、そもそも対策しようとしても無理だと思う。
「なかなか面白いな。まさかここまで様々な戦い方を見せてくれるとは思わなかったよ。それに全てが一流以上だ」
「道化師として、戦いは優雅に、楽しめるようにと教えられているので。まだまだいけますよ」
「君の小細工に付き合うのも悪くはないが、そろそろ贈り物も使っていこうか……『全能』」
「早速ですか……なら僕も『天才複合』」
少し離れたところでお互いのアウラが激しい戦いを繰り広げている中、俺たちもようやく力を入れて戦うことになった。
毬乃さんの贈り物は『全能』。
その名の通り、ゼウスから引き継がれた贈り物で、『全能』を使うことでほぼ全ての技を使えることができる。
相手にすると非常に厄介な贈り物ではあるが、意外と弱点もあるのでそこまで気後れすることはない。
というか、むしろ俺じゃなくて毬乃さんが俺の贈り物を注意していると思う。
何度か戦っているところを見られたことがあるから、この『天才複合』の強さを知っているはずだ。
「手始めに、さっきバハムートが見せてくれた異界魔法からいこうか」
「いやいや……それ葛木先生が大変な思いをして防いでいたやつなんですけど……」
あの葛木先生ですら自分の防御に全振りしてもなおダメージを負っていたのだ。
そんなレベルのものを一高校生に放つなど毬乃さんはどうかしている。
「ミカエル、訓練場の結界を強めて〜」
「かしこまりました」
「僕も半分担当するよ。ミカエルだけじゃフェアじゃないからね」
これは魔法全般に言えるのだが、魔法に対する一番の対抗策は同じレベルの魔法で返すことだ。
ただ、レベルが上がれば上がるほど詠唱の時間などがあって相殺自体が難しいので、一般的には上級魔法以上は避けるか防御することを選択する方が得策とされている。
現に葛木先生も相殺ではなく自らの防御を選択した。
では、俺はどうしようか。
そんなの決まっている。
無理かどうかではない。やるのである。
「全く、あまりいじめないでくださいね」
「ははっ! 君ならそう来ると思っていたよ!」
俺の魔法を見て毬乃さんは大喜びだ。
まぁ観客席で見ている葛木先生達はドン引きしてるけど、今はそっちに気を配っている余裕がない。
少しでもミスると本格的に死ぬため、この瞬間だけは集中して同じ出力の魔法を放つ。
「「異界魔法『紅蓮火山』」」
「やばいでこれは! 安倍晴明!」
「……アーサー、柊木先生の補助をお願い」
俺と毬乃さんの魔法がぶつかった瞬間、爆音が訓練場を支配し、余波だけで余裕で死ねる威力があったが、しっかりとミカエルがフォローしてくれた。
それは向こうも同じだろう。
なので、これはちょっとした意趣返しだ。
「なにっ! 結界が消えた⁉︎」
「毬乃、ちょっとごめんね」
本来毬乃さんを守るであろう結界がなくなったため、ゼウスはその身で毬乃さんを守らなくてはいけなくなった。
いくら厄災級といっても、異界魔法を食らえばただでは済まない。
ゼウスが毬乃さんを守ることを前提にした作戦だったけど、上手く行ったみたいでよかった。
「いてて……やってくれたね」
「ドッキリ大成功ってことで」
「まさか、異界魔法と一緒に毬乃にかけた結界も相殺してしまうなんて……蒼くんはよっぽどティアマト様達に鍛えられているようだね」
まぁ伊達に毎日死ぬ思いをしながら鍛えられてませんからね。
最初の頃はティア達も優しかったんだけど、最近は鍛錬中は鬼のように厳しい。
まぁまだ俺も鍛え始めて10年も経ってないからティア達には到底勝てないけど、それでもこうして戦ってると強くなってきた実感が出て嬉しい。
流石に今のは肝が冷えたのか、毬乃さんもすごい驚いたような顔をしている。
いつも揶揄われる側なので新鮮だ。
「今のは一本取られたよ。まさか、異界魔法と一緒に私の結界も剥がすとは思ってなかったよ。この結界も超級魔法程度の威力はあるはずだが……」
「鍛錬の賜物ですね」
「それで片付けられてしまうのは君だからということか……」
毬乃さんは面白そうに笑うと、仕切り直して試験を再開させるみたいだ。
俺としては結構お腹いっぱいなんだけど、毬乃さんはまだ戦いたいらしい。
なんだか、体のいいストレス解消相手にされている気がするけど、俺も毬乃さんから吸収できるものは多いのでもう少し頑張ろう。
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