第37話 試験開始4

「お疲れー」


「ありがとう。ちょっと不完全燃焼だったけど、楽しかったよ」


 宗一郎と柊木先生が準備をしている間、俺たちは帰ってきた朱音を労った。

 最後はカレンちゃんの暴走で終わってしまったが、それまでの動きは決して悪くなかった。


 カレンちゃんも久しぶりに俺たち以外の相手と戦えて楽しそうだったし、結果的には良かったのかもしれない。

 ちなみに、葛木先生は思っていた以上に消耗していたらしく、試合が終わると早々に控室へと戻っていった。多分、魔導書の反動を鎮めるために行っているのだと思うけど、厄災級のアウラなだけに少しだけ不安である。


 と、そんなことを考えていると宗一郎と柊木先生の準備ができたようだった。


 すでに宗一郎の隣にはアーサーがいて、柊木先生の隣にもアウラが立っていた。

 安倍晴明か……


 厄災級77位。英霊、『陰陽師』安倍晴明だ。

 陰陽の最先端をいくアウラであり、普通の魔法とはまた違った概念で戦ってくるため、俺たちにとっては未知数の相手だ。


 正直、柊木先生と安倍晴明とのコンビというだけで、一対一ではやりたくない。


 ちなみに、安倍晴明をもっとも天敵とするアウラは琴葉のアウラである酒呑童子だ。

 安倍晴明は鬼に強いため、酒呑童子では非常に部が悪い戦いになってしまう。


「北小路くん、全力でかかってきなさい」


「はい。では、お言葉に甘えて……いくよ。アーサー」


「了解!」


「晴明くん。結界と、術式を頼むで」


「わかった。叶に合わせよう」


「助かるわ!」


 宗一郎とアーサーがタッグを組んで、柊木先生を狙ったが、安倍晴明による結界によって一切攻撃が通らなかった。

 普通の魔法による結界であれば、アーサーの剣で簡単に破ることができるはずだが、陰陽術によって作られた結界はまた解除の仕方が変わるようで、宗一郎たちはまずそこから攻略しないといけないみたいだ。


 アウラと言っても、神話の世界から物語の世界と様々なところから生まれてくるため、一概に順位だけで判断しているとこうしてトリッキーな相手には勝てなくなってしまう。

 今、宗一郎に必要なのはさっきの朱音以上に相手を攻略する糸口を見つけないといけないところだ。


 そうこうしているうちに、宗一郎がようやく一撃柊先生に入れた……ように見えた。


「残念、それは残像や」


「マズっ!」


 柊木先生だったものは呪符で映し出された残像だったようで、それを攻撃した瞬間に宗一郎ごと巻き込んで爆発した。

 さすがS級魔法師だ。

 本来であれば、アウラの差で宗一郎が圧倒的に有利なはずなのだが、柊木先生はその差を実力や経験で見事に埋めていた。


 むしろ、宗一郎が遊ばれているような印象さえ思い浮かばせるような戦いだった。


「北小路くんは動きが正直や。だからこそ、僕みたいなトリッキーなやつを相手にするのはしんどいみたいやな」


「ですね……でも、それならうちにも一人いるんですよ。だから……アーサー!」


「はいよ!」


「なんやっ!」


 宗一郎が叫んだ瞬間、アーサーが柊木先生と安倍晴明の死角から出現し、二人に回し蹴りを放った。

 咄嗟のことで、きちんと防ぎきれなかった柊木先生と安倍晴明は訓練場の壁まで吹っ飛ばされていた。普通なら骨折だけでは済まないレベルである。


 にしてもすごいな……


 宗一郎は柊木先生と安倍晴明が気を抜いた隙を見逃さなかった……いや、そうなるように仕向けたのか。


 さすが指揮官である。作戦の運び方が一流である。


 ちなみに、俺もよくやられる手法であり、宗一郎が戦闘中に話し始めたら何かしらに警戒しないといけないのだ。

 今ではもう完全に捌けるようになったが、初めの方はしょっちゅうあの手に引っかかっていた。


「いたた……さすがや。まさか僕が一本取られるとはなぁ」


「柊木先生は……まだまだ余裕そうですね」


「まぁ戦地ではこのくらいで泣き言言うてられへんからな。僕たちは死ぬその時まで戦い続ける運命なんや」


「平和じゃない話ですね」


「全くや。次は君たちがそれを担うんやで」


「いやですよ。僕は友達達と楽しく過ごせたらそれでいいんです。富も名声も必要ない」


「確かに、君たちは今のまま静かに過ごしたほうがいいと思うわ。でも、世界がそうさせてくれへんねん。僕たち厄災級と契約している契約者は、戦う運命にあるんや」


 柊木先生は少しだけ悲しそうな顔をして、俺たちにも聞こえる声でそう言った。

 

 柊木先生の言いたいことはわかる。

 俺たちは世界でも非常に稀な存在だ。それこそ、国家が絡むほどの……


 だからこそ、もしこのままいけば必ずどこかで戦わなければいけないだろう。いや、もうすでにその歯車は回ってしまっているのかもしれない。

 

 だけど……


「だけど、俺たちを舐めないでほしいですね」


「……どう言うことや?」


「俺たち七人……いや、八人は今後どんな困難が降りかかって来ようとも、必ず跳ね除けます。自分たちの未来は自分たちで勝ち取る」


 そう。俺たちは俺たちで未来を掴み取る。

 あいつはかっこよく、まるで主人公のようにそう言い切った。


 そんなあいつを俺たちは誇りに思うし、これからも俺たちのリーダーはあいつなんだなと思う。

 主人公なあいつと道化の俺。

 いいね。やっぱり俺も俺のやるべきことをしていかないとね。


「僕も、君たちと同じ環境で育ちたかったわ……」


「先生とはこれからも腐れ縁かもしれませんね。色々お世話になります」


「任しとき。僕は君たちの担任の先生や。君たちの願いの手伝い、させてもらうわ」


「頼もしい限りです」


 そこで宗一郎と柊木先生はお互い笑みを浮かべたが、次の瞬間また初めのような緊張感が流れ始めた。


「さて、話しすぎたしそろそろ決着つけよか。そやな……北小路くんの一撃に僕が耐えられた僕の勝ち、耐えられなかったら北小路くんの勝ちでどうや?」


「わかりました。アーサー、武装化をお願い」


 宗一郎の要望により、アーサーは武装化し宗一郎の手に纏った。

 聖剣エクスカリバー。

 神をも穿つその剣を向けられた柊木先生は一筋の汗を流したが、次の瞬間今までとは比べものにならない覇気を纏った。


「では、行きます」


 宗一郎が宣言した瞬間、訓練場は大きな光に包まれた。


 勝負は一瞬。


 今回の勝負、勝利したのは……


「ふぅ……暴走しなくて助かった」


 北小路宗一郎。

 試合が終わると、観客席から大きな拍手が送られるのであった。

 

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