第34話 試験開始1
透と出会ってから二週間が経った。
それすなわち、今日獅子王学園に来て初めての試験が始まるというわけなのだが、俺たちはいつも通り皆で集まってAクラスの教室へと向かっていく。
透は他の生徒と同じように上級生との模擬戦と筆記試験なので順当に行けばAクラス入りは確定だろう。
あとは十傑に入れるかどうかだが、それは透のこの二週間の努力が必ず証明してくれるはずだ。
あれから毎日閻魔を召喚して、一生模擬戦をしていたりして透からすると相当な負荷がかかっていたと思うけど、弱音一つ吐かずに黙々と努力を積んでいっていた。
見た目によらず意外と負けず嫌いな一面を見れた二週間だと思う。
と、いうわけで透はあまり心配していない。心配なのはむしろ俺たちの方かもしれない。
普通にいつもと同じように登校してるけど、俺は憂鬱でしかない。
「頑張れよ。お前が一番大変なんだから」
「あれから何度見ても学園長が対戦相手だしなー。蒼、頑張れよ!」
「宗一郎も葛木先生じゃん。あの人、多分柊木先生と同じくらい強いから気をつけろよ」
「もちろん。まぁ蒼ほどじゃないけどね。さすがに僕も現代の魔女と謳われる四葉学園長を相手にするのは荷が重いよ」
「んなもん俺もだよっ!」
そう、例のごとく俺たち十傑は学園の講師陣と模擬戦をしないといけないのだが、俺だけ相手が四葉学園長なのだ。
しかも必ず勝たなければ十傑の資格を剥奪される。
もうね、どんな罰ゲームだよと叫びたいくらいだ。
普通俺じゃなくて宗一郎とか朱音が相手にしないといけない相手だろ。
二人も柊木先生と葛木先生だから一筋縄ではいかないと思うけど、それでも絶対に毬乃さんよりはマシだと思う。
俺も昔に少しだけ面識があったのだけど、単純にあの人は強い。
まだまだ発展途上中の俺たちとは違って、毬乃さんは世界で活躍していた魔法師だ。経験値は俺たちよりもずーっとあるはずだ。
「あー憂鬱だ……」
「蒼、今日は誰を連れてきたの?」
「ん? ミカエルを連れてきた。なんだかんだミカエルが一番力加減が上手いからなぁ……」
「一応言っておくけど、いつもみたいにわざと負けたりしたらダメだかんね」
「蒼、負けたら私の執事ね」
「あ、私もよろしくね。前の琴葉みたいに私もマッサージされたい」
「お前らは労うという言葉を知らんのか」
今日は午前中に筆記試験があって、午後に実技試験がある。筆記試験は一応復習もしたし、多分問題ないはずだ。
何かあるとすれば龍之介くらいだと思うけど、見た感じ大丈夫そうなので午前中の筆記試験はパパッと終わらせよう。
そんなわけで、俺たちは少しソワソワした教室の中で各々が筆記試験に臨むのであった。
「ふわぁ……まぁみんな余裕だよね」
「蒼、途中から寝てたもんね」
午前の筆記試験が終わって昼休み、午後の実技試験まではまだ一時間以上時間があるので、透も誘っていつものように昼食を食べにきていた。
筆記試験は思っていた通り、そこまで難しいものは出てこなかったし、答え合わせをしたけど多分みんな満点だと思う。
Aクラスではチラホラ頭を抱えて嘆いている人がいたけど、今回の試験は実技の方が点数の比重が大きいので午後から頑張ってほしい。
もちろん俺たちも、油断はできない。
これから戦うのは経験豊富なベテランだ。
それに比べれ俺たちはまだまだひよっこ。
いくらアウラや自分たちの才能の方が優れているからといっても油断しているところっと負けてしまうだろう。
それほどまでに経験というのは厄介だ。
俺たちにはない、明確な差だ。
それを埋めるためには俺たちもそれ相応の戦い方をしなければならない。
まぁここまで考えてるのは……俺と宗一郎くらいだと思う。元々みんな強いし、こんなところで油断するような奴がここまで強いはずがない。
格上だろうが格下だろうが真剣に戦うのが俺たちのポリシーである。
「あんたはよくふざけるけどね」
「……戦いは楽しんでなんぼだと思うんだよね」
「私たち相手にはいいけど、四葉学園長にはそれなりの敬意を払いなさいよ? 仮にもこの学園のトップなんだから」
「わかってるよ。ミカエルにもちゃんと戦ってもらう予定だよ」
毬乃学園長相手に手を抜くと本当に俺が負けかねない。
さすがに俺もこの素晴らしい学園生活を自分の怠惰で手放すわけにはいかないのでしっかりと勝つ。
「透はどうなの? 大丈夫そ?」
「筆記は大丈夫だと思うよ。実技も多分アウラを使うまでもないかも」
「ちゃんと手加減してやれよ? 今の透だったら俺たちともいい勝負するだろうし、上級生がかわいそうだぜ」
「さすがに龍之介たちと互角に戦えるのにはまだ早いよ。私も早いこと閻魔を克服しないとね〜」
「波長が合わないうちはアウラを具現化させるのにもかなりエネルギー持ってかれるからねー。私も最初はカレンとすごい喧嘩したよ」
「それはそれですごい気もするけどね」
確かに、相手は神をも滅ぼす伝説の龍だ。そんな存在相手によく喧嘩をふっかけられるなーと思う。
まぁだから今カレンことバハムートは朱音のアウラとしているのかもしれない。
結局、俺たち人間に必要なのは度胸なんだと思う。
俺の周りを見てもみんな度胸が備わってるしね。
そんなことを考えながらも、昼休みはみんなで楽しく話をして、午後の試験に挑むことになった。
透は俺たちとは別の訓練場なので、さっき別れてきた。
透なら問題なくAクラスへと来ることができるだろう。あとは俺たちが頑張らないとね。
俺たち十傑の戦いは任意で公開非公開を選べることになっているのだが、全員公開して良いということで10人とも同じ訓練場で試験を受けることになった。
最初は俺たちも仲間内だけで行おうとしていたけど、姫宮さんがどうしても俺たちの戦いを見たいというので公開することになった。
力をずっと隠し切るのは多分無理だし、これを機に他の十傑の人たちのアウラとかも見てみたかったのでちょうどよかったのかもしれない。
模擬戦の順番としては、佳奈から始まって、龍之介、第九席の人、第十席の人、姫宮さん、湊、琴葉、朱音、宗一郎、そして取りに俺である。
学園側からのあからさまな何かを感じたけど、まぁ学園長が最後というのは妥当っちゃ妥当なので順番に文句を言っても仕方ない。
俺たちが訓練場に着くと、すでに講師陣が全員揃っており、そこには毬乃学園長もいた。
遠くにいても毬乃さんのオーラは凄まじく、滅多に話す機会がないのか講師の人たちが必死に何か毬乃さんと話している様子だった。
興味がなさそうなのは柊木先生と葛木先生、あと数名だけである。
先生たちは俺たちが来るとニコッと笑って手を振ってくれた。
さすがはS級魔法師である。
他の講師とは違って余裕があった。
講師の中には俺たちの姿を見ると睨んで牽制してくる人もいるので、つくづく葛木先生と柊木先生のクラスで良かったなーと思う。
「さて、じゃあ揃ったみたいだから早速試験を始めようか。西園寺と担当の先生はこの場に残り、あとの人たちは観戦席に移動しよう」
毬乃さんはそう言って、観戦席へと向かっていった。
「佳奈、ファイト」
「ありがとう。蒼くん、見ててね」
「もちろん。かっこいいとこ見せてくれ」
佳奈は俺の言葉にニコッと笑いながらサムズアップをしてくれた。
うん。思ってた以上に余裕そうだ。
俺はホッと一安心して、宗一郎たちの座っているところまで向かうのであった。
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