第25話 透の力2

 体を動かすにあたり、透は一人で準備体操をして軽くジョギングをするだけだということだったので、俺はいつもと同じように組み手をして体を動かすことにした。

 ただ透に相手をしてもらうわけにはいかないので、俺はミカエルに頼んで組み手の相手をしてもらうことにした。


 厄災級のアウラに組み手を頼むとかどんなマゾなんだと思われるかもしれないが、組み手までなら俺もミカエルたちといい勝負をするはずである。


 ……ちょっと盛りました。手加減をしてもらえば俺もついていけるはずです。


「さすが蒼さま。また強くなられましたね」


「はぁ、はぁ、それでもミカエルに勝てる未来が思い浮かばなかったけどね。終始遊ばれてる感じがしたよ」


「ふふっ、まぁ一応私は厄災級ですからね。それに、ただの人の子で大天使とほぼ互角で組み手をできるというのもなかなか考えられないことですよ」


 俺が地面に転がされて息を乱しているところを透はまるで化け物を見るかのような目で見ているけど、今はそっちに構っていられるほど余裕はなかった。

 ちなみにミカエルは息一つ乱していないし、汗もかいている様子はない。


 これだけ動いてまだまだ余裕があるんだから、改めて厄災級の大天使ミカエルという女の子がどれだけすごいかがよくわかる。


「蒼、私が思ってるよりもすごい……?」


「まぁ、中学の時も身体測定は学年で一位だったし、割と自慢できるところかもしれん」


 そう、俺は意外と動ける方でありあの龍之介にも体育の成績は負けたことがない。

 流石にフィジカルでは負けるかもしれないけど、体捌きとかは俺の方が上手いのだ。


「よし、アップも終わったしそろそろ始めたいところだけどその前に……透も厄災級のアウラと契約してるって認識でいいよね?」


「流石にバレてるよね。うん。契約してるよ。厄災級第三位の閻魔とね」


「なるほど、そりゃ厄介だ」


「でしょー。あ、一応このことは誰にも話さないでね。これは蒼が先に私にミカエルさんを紹介してくれたから話したことだからね」


「わかってるよ。俺も無神経に突っついていいところじゃないのは知ってる。大方、アウラの力を使おうとすると暴走するんだろ?」


「……うん。一度幼いときに暴走してからトラウマで……今は封印してもらってるんだけど、それも最近弱まってきてるのかよく破壊衝動が起こるんだよね」


「なるほどねー」


 ふむ、なかなか厄介な話である。


 厄災級のアウラと契約しているのは大体察しがついていたけど、それがまさかあの『閻魔』というのは……

 ミカエルたちとも割と因縁のあるアウラであり、多分今の状態の透が閻魔の力を使おうと思うとほぼ確実に暴走してしまうだろう。


 一応封印の結界は張られてるんだろうけど、それもミカエルや他の厄災級が近くにいることによって弱まっているんだろう。

 多分放置しておくとそのうち暴走するはずだ。


 あの閻魔が大人しく操られているだけのはずがない。


「蒼さま、どうしますか?」


「一旦アウラの件は後回しだな。ついでに、閻魔ってことは贈り物は『魔眼』ってことでいいよね?」


「よく知ってるね」


「まぁ、ミカエルたちからよく話を聞くからね」


「昔はロキ様とタメを張るくらいヤンチャな子だったんですよ。今は随分と大人しいですけど」


「それをいうとロキも随分落ち着いたんじゃない?」


「ロキ様の場合落ち着いたというか『別人』といった方が適切かもしれないです。蒼さまのおかげですね」


「ロキって……深く突っ込まないけど、蒼が契約してるのミカエルさんだけじゃないのね」


 ティア、ロキ、アーニャは始祖の神とも言われており、この世のことわりを明かす上で必ず語られる神である。

 それぞれを拝める宗教もあるくらいだし、この世界に生まれて5年もすれば必ず名前を知っているといっても過言ではないほど、彼女たちは有名である。


 普段一緒に生活していると全くそんなこと気にした様子がないので俺も全く気にしていないけど、こうして他の人からするとやっぱり偉大な神さまたちなんだと再確認させられる。


「蒼よく今まで静かに生活してこれたよね」


「マジで極力情報を規制してもらってたからな。俺の仲間達以外だとこのことを知ってるのは学園長と妹くらいだよ」


「……そんな大事なこと私にいっても大丈夫だったの?」


「未来の仲間候補だからね。俺の期待にちゃんと答えてくれるならのーぷろぶれむだ」


「ふふっ、頑張るね」


 ようやく透の肩の力が抜けたので、これから最初に透の基礎能力がどのくらいなのかを測っていく。

 多分試験では体術、戦術、魔法の主に三つを重点的に見られるはずだけど、今後のことも考えて贈り物とかアウラのこともなんとかしたほうが良さげである。


「最初に見るのは体術、魔法、贈り物の三つだなー。戦術は経験がいるから一丁一憂ではなんともならないし、その辺は湊とか佳奈に教えてもらうのが一番だと思うし、今はとりあえず放置で」


「でも、試験でいるんじゃないの?」


「透のポテンシャルがあれば問題ないと思うよ。それに、戦術なんて所詮戦いを有利に進めるためのスパイスみたいなものだしね。今はそれよりも基礎能力を上げることに専念しよう」


 いくら戦術を練るのに長けていても、そもそもの力がなければそれを実行するのは不可能なのだ。

 そして、龍之介のような天性のセンスだけでそれを補う人間もいるし、要は大切なところをしくじらなければいいだけなので、今はそこまで戦術を必要としないのだ。


 正式にみんなに紹介した後に、湊か佳奈にお願いをすれば丁寧に教えてくれるだろう。


「と、いうことで……まずは体術と魔法、あとは贈り物も使ってOKの模擬戦をしよう。もちろん本気でな」


「わかった。でも、大丈夫? 下手すると蒼でも怪我するくない?」


 透は煽っているというよりかは真剣に俺の身を案じてくれている感じだった。

 まぁ、一度も本気で戦ったことがないのでその心配もわからなくはないけど、流石に俺を舐めすぎである。


 伊達に朱音に100メートル以上吹っ飛ばされて無事な男ではないのである。その気になれば龍之介みたいに刃を身に通さないようにだってできる。

 厄災級と契約することができる人間というのは総じてどこかが秀でているのである。


 それは透にも言えることだけど、まぁ大丈夫だろう。


 危なくなったらミカエルに止めて貰えばいいのである。


「危なくなったら私が止めますので、透様は殺す気で蒼さまと戦ってください」


「そういうこと。俺は体術と魔法だけで戦うよ。あぁ、魔法は超級魔法までしか使わないから安心していいよ」


「全然安心できないんだけど……私は超級魔法までしか使えないよ?」


 魔法のランクは下級魔法→中級魔法→上級魔法→超級魔法→異界魔法→世界魔法→errorとなっている。

 その中で世間一般的には上級魔法を使えれば超優秀とされており、以前の模擬戦でやらかした俺と総一郎の超級魔法合戦ははっきりいってやりすぎた。


 そんな中で透も超級魔法までは使えるというわけなのでかなり優秀な方だろう。多分、龍之介よりかは魔法のセンスはいいと思う。

 しっかりとアウラの力を使えたら多分透も世界魔法までは使えるはずだ。


 ちなみに、世界魔法以上はなんの対策もなしで放つと複数の都市が簡単に消滅してしまうほどの威力があるから要注意である。

 まぁ、俺の知る限り世界魔法なんて使えるやつは宗一郎くらいしか知らないんだけどね。


 歴代でも多分数えるほどしかいなかったはずだ。


 そして、その全員が世界魔法の怖さを知っている賢者たちだったので今まで大きな厄災はなかった。

 あの魔法戦争でも一度しか使われたことがないほどだ。

 

「じゃあ、本当に始めるけどさっきミカエルが言ってた通り、俺を殺す気で戦うように。大丈夫死なないから」


 あれ、今の俺かっこよくね?


 なんて馬鹿なことを考えているうちにミカエルが戦いの合図を出したせいで、俺は本当に死にそうになるのであった。


 調子に乗るのはよくないね……

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