第17話 模擬戦3
十傑第三試合は朱音対琴葉の試合だったのだが、彼女たちの試合は『人災』の一言に尽きるといっても過言ではないほど酷いものだった。
俺と宗一郎、湊の3人は軽く体を動かしに行っていたためきちんと見れていたわけではないが、外からでも訓練場内の爆発音が聞こえてくるほどだったので、相当派手に魔法合戦をしていたのは容易に想像ができる。
2人とも最初から魔法のみで戦うと決めていたようで、どっちも引くに引けず途中で葛木先生のストップがかかるまで一生上級魔法を撃ちまくってたらしい。
普通なら途中で魔力が尽きて試合が決まりそうなものだが、2人とも魔力量が常人のそれではないため、ずっと撃てたようだった。
試合が終わって葛木先生だけではなくBクラスの先生と柊木先生までもが「酷い戦いだった」と口を揃えていうほどのものなので、どれほど2人が暴れたかがよくわかった。
俺が試合を観戦してたら多分こっちまで流れ弾が飛んで来てただろうし、外に行っててよかったなというのが今の素直な感想である。
ただ、他のクラスメイトたちは迫力のある試合が見れて大満足のようでさっきの龍之介と佳奈の試合以上の歓声が上がっていた。
綺麗な朱音と琴葉が優雅に魔法を使っているだけでも映える何かがあったのだろう。
そして、十傑第四試合。
湊と姫宮さんの戦いとなったわけだが、こちらは龍之介たちと似たような戦術と魔法を生かしたいい試合だったようで、結果的には湊の勝利という形で終わったようだ。
最初、姫宮さんが魅了の魔法で湊を惑わせようとしていたみたいだが、すでに俺が一度入学式の時に引っかかってるのを見て対策済みだったらしい。
それもあって、湊自身はそこまで苦労せずに姫宮さんを倒せたようだ。
まぁ、普通に湊と姫宮さんでは結構な力量差があるはずなので仕方がないといえば仕方のない結果とも言える。
ただ、姫宮さんも湊も十傑らしいいい戦いをしていたようで、葛木先生たち的にも満足のいく試合だったみたいだ。
と、そういうわけでついに最後の試合となり俺と宗一郎の一騎打ちが始まろうとしていた。
もうね、なんの罰ゲームなんだと言いたいけど、宗一郎が戦うということでギャラリーたちは先ほど以上の盛り上がりを見せていた。
宗一郎は朱音たちと同じで魔法を使うだけで様になりそうだし、どう考えても俺のアウェイだけど精一杯頑張ろうと思う。
あんまり魔法は得意じゃないんだけどなぁ……
「蒼、全力でかかってきなよ」
「当たり前だ。お前相手に手を抜くと大怪我しちゃうだろ」
「そういっていつも手を抜いてるのはどこの誰だろうね? まぁ、贅沢は言わないからこの勝負がつまらなくなるのだけは勘弁してくれよ」
「おう。お前を楽しませるくらいには全力で戦ってやろう」
どこから目線だと周りから突っ込まれそうだが、俺と宗一郎のやりとりなんて割といつもこんな感じなので別にいいのだ。
さて、楽しませると言ったものの魔法と武器だけじゃ芸がないのは確かだ。
葛木先生は最初に「アウラ以外は何を使ってもいい」と言っていたはずだからちょっと工夫して宗一郎と遊びますか。
「さて、これで最後のペアになる。今までの8人はみんな面白い戦いを見せてくれた。君たちにも期待しているよ」
「僕は君たち2人の戦いを一番注目しとるからな。期待してるで」
戦う前から変なプレッシャーを与えないでくれますかね?
なんか葛木先生と柊木先生がニヤニヤしながら俺たちの方を見てるけど、多分朱音たちの試合が一番派手ですよと言いたい。
悪いけど流石に俺も宗一郎も朱音たちみたいに上級魔法を馬鹿みたいに撃ちませんからね?
「さて、それじゃあ始めてもらおうか……始め!」
「先手必勝!」
葛木先生の合図と同時に俺は自分を透明化させ宗一郎の背後についた。
急に俺がいなくなったことで、観客席ではざわざわしているみたいだけど、多分宗一郎には全く効いてない。
俺もそうだが、視界を潰されても気配で相手の位置がわかるため俺の透明化も一種の余興に過ぎないのだ。
まぁ、だからと言って透明化が無駄だとは言わないけどね。
気配が分かったとしても、防げないものが何個かある。
その一つが俺の手元にある投げナイフだったり、手榴弾だったりである。
威力を弱くしてあるので、直撃しても死にはしない。
大怪我はするだろうけど、宗一郎の再生能力なら余裕で回復できるはずなので、これくらいは問題ないはずだ。
「せーの……爆弾ぽーい!」
ということで俺は事前に用意しておいた手榴弾を宗一郎に目掛けて投げまくった。
外から見れば俺が制服の内ポケットから出しているように見えているが、制服の内ポケットに魔法で異空間を作っておき、そこに大量にアイテムやら武器やらをしまってあるのでほぼ無限に宗一郎にいたずらができる。
「確かに……アウラ以外は何を使ってもいいって言われてたけど、これはひどくない?」
「効いてないからいいじゃん。びっくりしたでしょ?」
「手榴弾は音がうるさいから嫌いなんだよね」
「そのまま鼓膜破ってくれると助かるんだけどなー」
「親友にそんな酷いこと言わないでよ。いくら俺でも傷つくよ?」
「男に遠慮なんてしてられるかって。ってやばい!」
戦ってる最中なのに意外と会話に乗ってくれるなーって思っていると俺の目の前に同じような手榴弾が飛んできて思いっきりクリーンヒットしてしまった。
透明化中で普通なら見えていないはずなんだけど、さっきも言ったように宗一郎にそんなもの関係なかったみたいだ。
痛っ……喰らった瞬間に回復魔法をかけてなんとかなったけど、あと一歩遅ければ俺の負けだった。
「さてさて、次はどんなのがくるのかな」
「お前の余裕のその表情絶対に崩してやるからな!」
宗一郎は笑みを浮かべたまま俺の次の攻撃に備えている。
口では余裕そうにしているものの、警戒はしっかりとしているようで、迂闊に間合いに入ると返り討ちに遭いかねないので非常に厄介だ。
かと言ってこのままただただ睨み合ってても時間の無駄なので、今度は足に魔力を込めてスピードを一気に上げてみる。
ただ魔力を込めているだけだが、俺の場合それだけでも音速は超えるので目で追うのが格段に難しくなるはずだ。
「ほらよ!」
「痛っ……流石に痛いな」
「お前の反射神経が異常なのがよく分かったよ」
宗一郎は俺の蹴りをギリギリで反応して防御したが、踏ん張りが足りなかったようでそのまま吹っ飛ばされていた。
直撃すれば俺が勝てたのに、人間離れした反射神経のせいで勝ちそびれてしまった。
「さて、今度は俺の番でいいよね?」
「ダメって言ったらそのまま降参してくれるのか?」
「ちょっと何言ってるかわかんないかな」
宗一郎はそう言った瞬間、思いっきり俺の方に殺気を向け、今日一番の魔法の詠唱を始めていた。
朱音たちは上級魔法で留めていたようだが、宗一郎のはその一段階上の超級魔法だ。
魔法のランクはまた後々説明するにしても、学生がおいそれと放っていいものではない代物だ。
現に超級魔法が出てくるなど予想もしていなかった葛木先生と柊木先生は焦ったように俺たちの周りの結界のレベルを上げ出した。
「っ⁉︎ ちょっとそれはまずいんじゃないですかね?」
「先生たちが止めてくる様子もないし、いいんじゃない?」
「先生たちもびっくりしすぎてそれどころじゃないんだよ。てか、しくじると俺死ぬんですけど……」
「うまく避けてね。『超級魔法 水龍』」
「お前まじで恨むからなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
宗一郎は名前通り五匹の水龍をこちらに向かって放ったきた。
普通なら死ぬ。いや、普通じゃなくても死にそうだよ!
「やばいやばいやばい!」
「蒼、逃げてばっかりだとそのうち死ぬぞ」
「ったく! 俺もやるしかない! 『超級魔法 イカズチ』!」
「「「きゃあぁぁぁぁ」」」
超級魔法には超級魔法で返すべし。
おかげで宗一郎の水龍は全部処理できたけど、観客席の方がパニック状態だ。
朱音たちが俺の方をめっちゃ睨んでるけど、俺のせいじゃないんだよなー!
隣でニコニコ笑いながらまだ戦いたそうにしてる宗一郎に怒ってください!
「一条、北小路これ以上はダメだ」
「2人とも、ちょっとやりすぎや。期待しとるとはゆうたけど、これは酷いわ」
流石にこれ以上は危ないということで、俺たちの勝負もドローとなった。
結果的には十傑の凄さを知らしめられたのでよかったんだけど……
もちろん。俺と宗一郎、朱音と琴葉の4人はその後みっちり2人の先生に怒られました。
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