第15話 模擬戦1
さて、さっきの時間は全く精霊が懐いてくれずめちゃくちゃ寂しかったんだけど、これからその鬱憤を晴らせるからすっごい楽しみだ。
何故かみんな俺が不幸なときにはすごい話しかけてきてくれて、Bクラスの女子にも心配されたり「そんな一条くんも可愛いですよ!」と励まされる始末である。
声をかけてくれたのは嬉しいけど、可愛いは果たして褒め言葉なのだろうか。
まぁ、可愛かったからにっこりスマイルで返したけどね。
あれが龍之介とか宗一郎だったら本気でアウラを召喚してボコボコにしてたね。
「これからは僕が決めたペアで順番に模擬戦をしてもらう。アウラはまだ契約できていない人も多いと思うから禁止で、それ以外は好きに使ってくれて構わない」
そう、待ちに待った模擬戦である。
対戦相手は葛木先生たちが決めてくれるらしく、俺の相手は宗一郎だった。
十傑は原則として十傑同士で戦うことになってたから覚悟はしてたけど、なんでよりによって宗一郎なんだよ。
一番戦いたくない相手と戦うことになったけど、まぁ宗一郎だとお互い気にせずボコボコにできるから結果的にはいいのかもしれない。
俺が全力で向かって行っても宗一郎なら怪我しないだろうしね。
「蒼、負けても恨みっこなしだしな」
「ちょっとは手を抜いてくれてもいいんだよ?」
「最近お前と戦ってなかったから、俺もちょっと本気出すかもな」
「やめて! 俺が死ぬ!」
「だったらお前も本気でこいよ。せっかくなんだし楽しもう」
俺と宗一郎が本気でやったら多分訓練場が大変なことになると思うんだけど、そこはまぁ葛木先生と柊木先生がなんとかしてくれるだろう。
柊木先生は言うまでもなくS級魔法師だし、葛木先生もその柊木先生に負けないくらい強いだろうし、Bクラスの先生の力はわからないけど、2人がいればなんとかなるだろう。
俺と宗一郎だとアウラだけでなく贈り物を使っても先生たちの結界を破りかねないので、俺たちは魔法と武器のみでの戦いになると思う。
それでも普段だとなかなか満足に戦えないので、この機会は割と貴重である。
さっきは俺も口でああ言ってたけど、存分に楽しませてもらおう。
「ちー、私も蒼がよかったなー」
「朱音たちだと俺が相手しづらいからナシ!」
「朱音は誰と戦うの?」
「私は琴葉とだね。それで、龍之介と佳奈、湊と姫宮さん。あとは残り2人の人だって」
「うわ……佳奈が割と可哀想」
朱音からそれぞれの対戦相手を聞いて、俺と宗一郎は佳奈に同情の視線を送った。
佳奈は魔法戦闘が主な戦い方なのだが、龍之介はそれに全く付き合わない脳筋野郎なので佳奈としては相性があんまり良くないのだ。
龍之介に近づかれた瞬間、佳奈の負けが決まると言っても過言ではない。
「なんだよ。俺だって好きで佳奈と戦うわけじゃないぞ」
「わかってるよ。私のことは気にせず、全力で来ていいよ。じゃないと模擬戦の意味がないしね」
「いや……でもなぁ……」
龍之介はまだ渋っているようだが、俺にはわかる。
佳奈は本気で龍之介に勝とうとしてる。
戦いの場において、佳奈はこの中だと一番弱いけど頭は一番キレている。あの笑みは肉食獣を狩るときのソレだ。
まだ龍之介は躊躇っているようだけど、戦いが始まってもあのままだときっと勝つのは佳奈の方だろう。
「ほな始めよか。君たち十傑は一番最後になるから、上の席で他の子たちの戦いを見といて〜」
俺たちの前に35組あるので、上の席で座って他のクラスメイトたちの戦いを見るように促された。
他の人たちは外で体を動かしたり、下の準備室で各々武器を選んだりして待っているようだが、俺たちはそれをするのにもまだ早いということで、全員で上に上がることにした。
多分、俺たちの出番は二時間後とかになるので、今からはぼーっと話しながら自分たちの番を待たなければならない。
午後の授業は5時までなので間に合うとは思うけど、流石にちょっと暇である。
「ねぇ、せっかくだしみんなでどっちが勝つか予想しようよ」
「いいね。一番負けた人は今日の夜ご飯全員分奢りね」
「よっしゃ! 絶対に勝つぞ!」
「こいつら暇だから賭け事始めやがった……」
いやまぁ暇な気持ちはわかるけどさ。
でもこれから必死に頑張ろうとしているクラスメイトをよそに賭け事ってさすがに可哀想じゃない?
まぁ、みんな割と乗り気だから参加はするけどさ。
宗一郎も若干呆れ気味だけど、俺と同じように文句は言わずに黙って参加するみたいだ。
まぁ、相手が天下の琴葉さまと朱音さまだからな。俺たちに拒否権はまずない。
ルールは単純で模擬戦が始まる前にどっちが勝つかを予想して、それを35回繰り返して一番当たった数が少ない人が今日の夜ご飯を全額奢りというわけだ。
多分、今日はクッソ豪華な夜ご飯になると思うから負けたら10万円以上は飛んでいくと考えないといけない。
こういうのは金銭的な問題よりもプライド的な問題で絶対に払いたくないので、俺も全力で予想して勝ちにいってやる。
そうこうしているうちに、一番最初のペアが出てきた。
このペアは男女で組まされており、2人ともトップバッターということで緊張した様子だった。
男子の方は無難に剣を構えており、女子は珍しいレイピアのような細い剣を携えていた。
「今時レイピアか。珍しいな」
「あの武器防御が難しいから私苦手なんだよね〜」
「朱音はまず剣の類は全部苦手だろ。もっと練習すりゃいいのに」
「うるさい。あんたみたいに武器持っただけでなんでも一流になれないの。私はそもそもあんまり武器に依存しないタイプだし」
龍之介はどんな武器でも一時間もあれば大体使いこなせることができる天性のセンスがあるのだが、その一方朱音の方はあまりそっちの才能はなかった。
というか、龍之介が武器の扱いに長けすぎているので比べるとどうしても見劣りしてしまうのだ。
俺や宗一郎でも武器の扱いは龍之介の足元にも及ばない。
このグループは得て不得手がみんなはっきりしているため、個性もあって面白いのだがやっぱり他人の才能が羨ましいのは事実である。
俺だって龍之介みたいに丈夫な体だったり湊みたいに戦術に長けたおしゃれな戦い方してみたい。
「まぁ、これは流石に男子の方にベッドするなー。流石に相手が悪すぎる」
「だよね。私も男子に入れる」
「一回戦はみんな勝ちになっちゃうね」
「まぁ、仕方ないんじゃない。どこかで差がついてくるでしょ」
「僕もみんなと一緒の方で」
朱音たちはみんな男子の方に入れるらしく、すでに勝ちのところに一本線を引いていたが、まだ待った方が良さそうだ。
「じゃあ俺は女子に入れちゃおうかな」
「気が合うな。俺も女子にベッドだ」
珍しく宗一郎と気があった俺は宗一郎と共にレイピアを持った女子生徒が勝つと予想する。
一見男子生徒の方が武器の扱いもなれていそうだし、きっと普通の状態で戦えば男子生徒が圧勝するだろう。
5人の見立ては間違ってはいないけど、実践となればまた話が変わってくる。
「男子の方を見てみ。彼緊張してるでしょ。あれじゃあ全力を出すのは難しいでしょ」
「対して彼女は全く緊張していない。それに加えて、相手が緊張しているのに気づいているな。これじゃあいくら基礎能力に差があったとしても男子の方が勝つのは厳しいな」
俺と宗一郎の考察を聞いて朱音たち改めて男子生徒の方に注目すると、わずかだが剣先が震えていた。
「あちゃー。そこまで考えてなかった。確かに80人に見られた状態だと誰だって最初は緊張するよね」
「しかもここにはS級魔法師の柊木先生までいるからな。緊張するなと言われない方が無理だ」
そう。さっきまで色んな生徒にラフに話しかけに行っていた柊木先生だが、落ち着いて思い出すと彼はこの国の超有名人であり、そんな人に試合を見てもらうんだ。
緊張しない方がおかしい。
その点、女子生徒の方は普段から見られているのになれている様子だし、多分名家の子か英才教育を受けてきたんだろう。
見られるのに慣れているというのは意外と大きなアドバンテージなのだ。
「それじゃあ、2人とも準備ができたみたいだし早速第一回戦を始めるよ。正々堂々、僕たちに力の全てを見せてくれ。いくよ……始め!」
葛木先生の合図とともに、2人は武器と魔法を屈指して攻防をしていたが……
勝利したのは俺と宗一郎が予想してた女子生徒の方だった。
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