第20話 詩乃とデート①

 そして土曜日の昼過ぎ。

 すがすがしい青空の下、待ち合わせ場所の駅前で待っていた私服の詩乃が駆け寄ってきた。


「遅いですよ、万尋様。もう少しで他の男の人について行くところでした」


「ナンパされてるところは見たけど」


「えー! それなのに助けに来てくれなかったなんてぇ〜」


「ごめんごめん。なんか余裕で振り払ってたから、俺はいらないなと思って。いざとなったら守るから安心しろ」


「はい、安心します♪」


 ギュッと俺の腕にくっついてきた。

 今日の詩乃は茶髪をシュシュで結んで片方の肩に垂らしている。


「髪型似合ってるよ」


「ありがとうございます♪ すぐ気づいて褒めてくれるなんて、万尋様は女心が分かってますね」


「そうか?」


「はい♪ さすが私の主人様です。さぁ早くいきましょう!」


「おっと。そんなに引っ張るなよ!」



 詩乃の手を握り、連れてこられたのは水族館。

 基本的にデートプランは彼女たちが行きたいところにしている。


「えへへ、意外でしたか?」


「まぁな。てっきり遊園地とか思いっきり遊べるところを選ぶかと」


「私も最初はそっちにしようと思ったんですけど……」


「けど?」


「お父さんとお母さんに最後に連れていってもらったのが、この水族館だったんです」


「……そうか」


 思い出の場所ということだな。


「万尋様と来れて良かったです。だって、この水族館で大切な人と一緒に過ごすって決めてましたから」


 絶世の美少女である詩乃の切れ長の瞳に見つめられる。


 ……照れるな。


 大切な人。

 やっぱり詩乃は俺のことを……


「いたっ」


 そんな事を考えていたら、詩乃が声を上げた。


「どうした?」


「あ、いや……なんでもありませんよ?」


「正直に話さないと帰るぞ」


「……うぅ、じゃあ正直に言います。少々、サイズが合わない靴を選んでしまって……」


 足をさする詩乃。

 随分歩きづらそうにしていたのはそれが原因か。


「もしかして俺のせい?」


「はい。万尋様に可愛いって言ってもらえるように張り切っちゃいましたっ。でももう大丈夫ですよ、慣れてきまし——きゃっ」


 言葉を遮り、俺は詩乃をお姫様抱っこする。


「ま、万尋様!? なんでお姫様抱っこなんて……!?」


「俺が無理すんなって言ったところで詩乃は聞かないだろうし、なら強制的に連れ出そうと思って」


「つ、連れ出す!?」


「連れ出して足の治療な。その分じゃ、かかとが真っ赤になってるだろ」


「だから大丈夫と……」


「まぁ俺がこのままお姫様抱っこして、水族館を回ってもいいけどな」


 男がお姫様抱っこするのがよほど珍しいのか、水族館のお客様さんは魚じゃなく俺たちの写真を撮っている。


 フラッシュが眩しい。


 その状況にようやく気づいた詩乃は、頬を染めて唸った後、「ち、治療します」としぶしぶ言った。


 一旦外に出てベンチに座り治療。


「はいよ。痛くない?」


「少しはマシになりましたね」


 濡らしたハンカチで軽く拭いた後、水族館特有の絆創膏を購入して、詩乃に貼った。


 俺の予想通り、かかとが擦れており水ぶくれになりつつあるけれど破れてはいない、赤い状態。見ていて痛々しかった。


「ごめんなさい、デート止めちゃって」


「全然いいぞ。時間はまだたっぷりあるからな」


 時間は4時まで。

 今は11時なので、まだまだである。


「やっぱり万尋様は優しいですね」


「姉妹揃って優しい優しいってよく言ってくれるけど、これが普通だと思うんだが」


「普通なことを当たり前にする男性は凄いんですよー」


「そうか? まぁ詩乃にはとびきり優しくするな」


「……万尋様はカッコよ過ぎます。はぁ……好きです、えへへ」


 見上げながら、頬を真っ赤にして、デレる詩乃のあまりの可愛らしさに、ぐはぁっ、と致死級のダメージを追う。

 

 ……これはズルい。いつもからかってる女の子が素直にデレるのはズルい。

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